頻発した中国・工場ストライキ、対処できなかった日系企業の落とし穴

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 これまで確かに日系企業の対中ビジネスは大きな成果をもたらした。だが、いまや現地のビジネス環境は大きく変化している。中国が「世界工場」から「世界市場」へと転換している今、現地の労働や土地など生産要素を構成する価格は大幅な上昇を示している。

さらに地場の国有・民間の有力な企業も経営資源の蓄積に伴い、その競争優位性を顕在化させつつある。上述した従来の日系企業が有力な地場企業に対して保有してきた、技術的な強みはすでに失いつつあるのだ。

中国の環境激変に伴い、日系企業の対中ビジネスモデルは、その戦略の転換や見直しが迫られている。日本企業は中国という巨大市場を狙うためにも、まず現地のニーズに応じること。

また地場や欧米系企業に対していまだ持っている優位性を活用し、省エネ・新エネやハイブリッド車、原発、水処理などといった、エネルギー、環境、インフラの分野に投資を集中すべきだ。中国政府は今後11~20年の10年間に、グリーンエネルギー、いわゆる環境負荷が小さい新エネルギ-産業の振興に5兆元(約70兆円)規模を投資することを計画している。

中国では持続可能な経済成長のため、エネルギーの安定的供給や環境対応という視点で、原発に加えて、積極的に太陽光発電や風力発電、バイオマス発電、スマートグリッド、電気自動車産業の発展に取り組んでいる。これらの分野に技術・ノウハウの優位性のある日本企業にとって、大きな商機となる。

今後、従来の低コストを狙った日系企業の労働集約型の事業は、さらにコストの安い中国内陸部やあるいはベトナム、ミャンマー、バングラデシュなどにシフトしていけばよい。グローバルな視点から、各国のビジネス環境に対応したビジネスネットワークを、今こそ構築すべきであろう。


かく・しし
 中国大連出身。1989年来日し、横浜市立大学商学部、90年東京大学大学院経済学研究科、99年法政大学大学院博士課程修了(経済学博士)。同年、東京大学社会科学研究所外国人研究員。2001年日本エネルギー経済研究所、08年帝京大学経済学部勤務。著書に『日本の対中国直接投資』(明徳出版社)、『中国石油メジャー』(文眞堂)などがある。

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