ありのままは相手にされず、磨きすぎは怖い 今こそもう一度「自分磨き論」を考える

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「優子がつけているチェック表を頂いたんですけど、ものすごくたくさんの項目が並んでいました。ルックスや車の所持から始まって、体臭や口臭、髪の毛の量や毛質まで、すっごく細かい項目が並んでいました(笑)」

こういったチェック表が当時の婚活のイメージだったわけ。でも、こんなチェック表を相手に適用することができるのは、優子がすでに十全に魅力的だからにほかならない。優子は、最終的には好条件の追求をなげうって、恋愛による結婚相手獲得へと「撤退」するのだけれど、こうした「撤退」ができるのもまた、彼女に恋愛対象としての十分な魅力があったからだ。婚活をするには、婚活せずに結婚するならなおさら、魅力は不可欠なわけだ。

コントロール不能な妖刀から便利な万能包丁へ

もう、婚活と自分磨きとは切っても切れない。自分磨き論が批判されるようになった今でも、婚活の文脈でいまだに自分磨き論が根強いのにはこういった事情がある。たとえば、女子力アップ・婚活コンサルタントなる肩書の澤口珠子は「恋愛.jp」というウェブサイトの相談コーナーで「そのままの私を受け入れてほしい? なんて自分よがりで、傲慢な考えなのでしょう……。思い上がりも甚だしい! 喝~!!」という回答をしている。

自分磨き論があった。それに対する揺り戻しがあった。で、今となっては、自分を磨きまくるのも、かといって捨て置くのも、どっちも極端で話にならんってことが理解されて、だんだんと落とし所がわかってきた。今の状況はそんなところなんだと思う。いろいろ見ていると、ポイントはおそらく二つあって、一つは相手に引かれない程度に身だしなみを整えようということ(社会化)、そしてもう一つは自分の特徴を短所も含め戦略的にアピールしようということ(ブランディング)だ。

先の澤口も、女性を有機栽培の野菜にたとえて、これと同じことを言っている。自分磨きをしないのは、「洗わずに泥だらけでテーブルにゴロッと置」かれているようなもので、洗って(社会化)、素材に合った調理・アレンジ(ブランディング)をすることは不可欠だというのだ。

コントロール不能な妖刀から便利な万能包丁へ。婚活における自分磨きは、姿を変えている。
 

「週刊東洋経済」2014/8/30号:保険のウソとホント

榛原 赤人
はいばら あかひと / Akahito Haibara

1988年生まれ。都内某大学院の社会科学分野博士課程に在籍。17歳の頃から結婚をめぐるもろもろに関心を持ち、婚活ブーム以降は、その思想的背景に注目して、机上での結婚探求を行っている。
 

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