羽田圭介「人間関係断つ"安易リセット"は不可能」

不要なものを捨てても人の「記憶」は消せない

芥川賞受賞から6年が経った今も、精力的に作品を生み出し続ける羽田圭介さんに、近著『滅私』に関連して、「物や人間関係に対する考え方」について伺いました(撮影:尾形文繁)
今年は『Phantom』(文藝春秋)に続き、『滅私』(新潮社)と、2つの小説を刊行した羽田圭介さん。いずれも現代社会が抱える“ゆがみ”を鋭くも、おかしみを交えて描いた作品として話題となっています。
先行き不透明な時代を生きる私たちにとってお金とは何か? 物とは何か? 人生を幸せに生き抜くための考え方について、羽田さんに2回にわたってインタビュー。後編では、必要最低限の物しか持たないミニマリストの男の末路を描いた最新作『滅私』を通じて、羽田さんの「物や人間関係に対する考え方」について伺いました。
(前編:『羽田圭介、貯金した末の将来に期待するのは賢明?」』)

人間関係をリセットしても人生は変わらない

――『滅私』では、主人公である冴津(さえづ)が物を捨てるのと同時に人間関係もよりスマートにしていく姿が描かれています。最近、こうした「自分にとって不要な人間関係を手放していこう」とする人が増えていますが、それについてはどう思いますか。

先日、ある方と対談をしたときに「明日、学生時代の友達と遊ぶんですよ」と言ったら、「偉いですね。最近は昔の友達とか、古くからの繋がりを切り捨ててしまう人も多いから」と言われて、びっくりしたことがあったんです。学生時代の友達と遊ぶことを褒められる社会ってどうなんだろうと思いましたけど、それぐらい皆、人間関係をリセットしたがっているってことですよね。

自分の足を引っ張るような人間関係を断ち切ることで、より高いステージに行けるとか、別のもっといい出会いが舞い込んでくるとか、そういった願望を抱いている人が多いのかもしれません。

勿論、本当に足を引っ張ってくる人からは距離を置いてもいいとは思いますが、まっとうな助言をしてくれている人に、言われた本人が拒否反応を示しているだけの場合もありますよね。ただ、本人はそうやって不要な人間関係を断ち切ったと思っていても、周りからしたら「突然連絡がつかなくなったヤツ」でしかないわけで……。人間関係をリセットして人生が変わった気でいるのは、実は自分だけかもしれません。

――物だけではなく人間関係も切り捨てようとする冴津のもとに、彼の過去の悪行を知る更伊(さらい)という人物が現れて、ことあるごとに冴津の心を翻弄していきます。更伊という人物を登場させた意図とは何でしょう。

物や人間関係は捨てることができたとしても、人間そのものは捨てることができませんよね。そして、相手という人間が自分に対して勝手に持っている「記憶」も、同様に捨てることはできません。

その記憶が「負」のものであるなら、自分にとって「不都合な人間」となって、どこかで生き続け、自分の人生に付きまとってくる。いくら物を捨てても、人間関係を切っても、自分では捨てることができない、どうにもすることができない存在として、更伊という人物を描きました。

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