羽田圭介、貯金した末の将来に期待するのは賢明? 今あえてお金の価値を問い直す作品を書く理由
お金の価値を問い直す作品が書きたくなった
――今年は『Phantom』に続き、11月30日に『滅私』が発刊されますが、2作品の執筆のきっかけについて教えていただけますか。
まず『Phantom』については、実は書き始めたのが2014年の年末ぐらいなんです。当時はまだ自分が満足に稼げていなくて、株式投資をすればこの不安な状況を抜け出せるんじゃないかと思い、投資信託や米国株などいろんな金融商品を買い始めた頃でした。
ただ、2015年に芥川賞をとると一気に本が売れて、株で儲けようとしている人の気持ちが真剣に考えられなくなってしまったんです。すでに半分ぐらいは書いていましたが、だんだんそのテーマがしっくりこなくなって、途中で放置してしまいました。
それから『成功者K』や『ポルシェ太郎』などアッパーな感じの作品を書いて。2020年にミニマリストをテーマにした『滅私』(『新潮』2020年9月号)を書き終えたところで、過去に書きかけた『Phantom』を読み直してみたら、むしろ今の自分に合っていると感じました。
僕自身はすでに投資に興味がなくなっていたものの、今までまったく投資に関心を示さなかった周りの人たちが急にNISAとかiDeCoについて話題に出すようになったんです。投資でお金増やして「FIREしたい」なんて言い出す人も増えてきました。
その一方で、既存の金融システムに限界を感じて、「これからはお金じゃない。人との繋がりが大事だ」という層も目立ってきて。そこで株でお金を貯めようとする主人公と、お金ではなく人との繋がりを求めて特殊なコミュニティーにのめり込んでいく恋人の両者を対比させたら、面白い作品になると思い、執筆を再開させたんです。
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