羽田圭介、貯金した末の将来に期待するのは賢明? 今あえてお金の価値を問い直す作品を書く理由

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――将来のためにお金を貯めておきたいのも、この先やりたいことがやれるという“可能性”を手に入れたいからかもしれませんね。

そうとも言えますね。でも、どうでしょう。お金が貯まる頃にはもう体もめっきり老いていて、やりたいことに注げる体力や精神的エネルギーもなくなっているんじゃないかと。60代、70代になって、「夢だった映画製作をやります!」と思い立っても、実現させるのはやりきる気概の問題として相当厳しくないですか? 健康面でもいろいろ不安が出てくるでしょうし、旅行もグルメも楽しめなくなっているかもしれません。

年を取れば取るほど生活が縮小していくのは目に見えていること。リアルに想像してみたら、将来とか老後に金持ちになるのを期待しながら辛い倹約をし、なんでもできる若い“今”を犠牲にするのは、賢明ではないでしょう。「税制優遇されるから」と言ってiDeCoを始める人も多いですが、60歳以上にならないと引き出せなかったりするので、僕は賛成できないですね。

元気なうちにお金を使って、いろんなことを体験して、自分のやりたいことを突き詰めていったほうがいい気がします。やりたいことを先送りすればするほど、可能性は狭まってしまいますから。

最短距離で行く怖さから人は回り道をしてしまう

――やりたいことが見つかったとしても、そこに向かっていく怖さもあります。

確かにやりたいことに真っ直ぐ向かっていける人は少なくて、回り道してしまう人がほとんどでしょう。

僕も一時期、都心に投資用のマンションを1棟購入して、自分はそのうちの狭いワンルームに住んで、あとは物件の収益で暮らしていけたら面白いなと考えたことがありました。そうした環境が整ったら、集中して執筆活動に取り組めると思っていたんです。

『滅私』(新潮社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

でも、投資用の物件を手に入れるのってめちゃめちゃ面倒くさいことがわかって。市場の動きをチェックしたり、物件を探して吟味したり、金融機関に融資してもらうための審査を受けたりと、とにかくすごい回り道をしないといけない。

結局、冷静になって考えてみたら、自分が書きたいことに集中するためにはそんなマンションなんていらなくて、静かな環境と机一個さえあればいいってことに気づいたんです。

例えば、好きな子に告白したいけど、その前に最新のファッションで身を固めたり、飲食店に詳しくなってみたり……。本当は自分の求めるものに一直線に向かえばいいのに、それができなくて変に遠回りしてしまうことって、人間よくあるんじゃないかな。

――それは、もし最短距離で行って失敗した時に、“不甲斐ない自分”と直面したくないからでしょうか。

そうかもしれませんね。僕も静かな環境と机さえあれば大作が書けるかというと、そんな保証はないから、わざわざ回り道したくなるわけで……。でも、本当は遠回りせずに、今すぐ机に向かって大作を書き始めなきゃダメだってことですよね、自分の場合だったら(笑)。

―後編に続きますー

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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