ミレニアル・Z世代が支持、「大きな政府」の米国史 東京大学・中野教授に聞くアメリカ史(前編)

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一方でフランクリン・ローズヴェルトは、南部で続いていた人種隔離政策や黒人への賃金差別などには目をつむります。当時の民主党の地盤だった南部諸州(現在は共和党の地盤)からニューディールの諸改革に支持を取り付けるためです。利害関係が分断しやすい社会公正上の問題に手を付けるより、財政政策による経済成長や所得再分配のメリットが大きかったのです。ニューディールとは、巨大な経済的セキュリティの連合であったということがわかります。

――第2次世界大戦後はどうなるのでしょうか。

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ニューディールの財政政策が戦後の経済的繁栄の下地を作ったのは間違いありません。1950年代のアメリカは「豊かな社会」と呼ばれ、分厚い中間層が形成されました。また、労働者保護や貧困対策を重視する基本政策はその後も続き、そうしたニューディールのリベラリズムがピークを迎えるのは、1960年代のケネディ大統領や、ジョンソン大統領(高齢者向け公的医療保険や低所得者への公的支援など社会保障・社会福祉プログラムを整備・拡充化した「偉大な社会」政策で有名)のときだったと言えるでしょう。

しかし、先ほども少し話しましたように、ニューディールには今日のリベラルや左派の目から見れば明らかに欠落した部分がありました。それは、人種差別やジェンダー問題への対応です。経済的な安定を第一義的に考えてきた長いニューディール時代には、実はそうした面では、十分な成果を見ることができなかったのです。

ニューディールに反旗を翻した「新左翼」

――ある種の限界があった、と。

そうです。そして、このような「旧来の左派」の政治に不満を抱え、登場してきたのが、ニューレフトやカウンターカルチャー、公民権運動です。ニューディールでは取り残されてしまった、黒人や女性、LGBTQ(性的少数者)などの人権や文化的な問題に焦点を当てると同時に、「ボトムアップで積み上げる熟議型の民主主義はどこへ行ってしまったのか」という議論も巻き起こってきます。これは、アメリカ社会の地域コミュニティをどう活性化していくかという話とも関係してくるものです。

以下、後編に続く。中野教授は後編で、ニューレフトがニューディール連合の何について批判や攻撃を行い、どのような展開を遂げたのか。さらにリベラル勢力の退潮や、今日のミレニアル世代・Z世代や民主党左派、バイデン大統領とのつながりについて語っている。
野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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