ミレニアル・Z世代が支持、「大きな政府」の米国史 東京大学・中野教授に聞くアメリカ史(前編)

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――そうした中から次の時代に引き継がれていったものと、途絶えてしまったものという分け方をすると、どうなりますか。

革新主義の時代の次に来るリベラルの潮流は、ニューディールですが、そこへ継承されていくものとしては、まず「政府が企業活動の監督や労働政策、貧困問題に強く関与する」という基本的な考え方が挙げられます。

たとえば、20世紀初頭のセオドア・ローズヴェルト大統領は、自ら革新主義者を名乗り、大資本の市場独占を提訴したり、商務・労働省を新設して企業の情報公開や監督を強化したりしました。また、この時期、労働災害補償制度など初歩的な労働者保護や社会福祉政策も始まります。ただ、アメリカの場合、司法が保守的な判断を下すことも多く、西ヨーロッパ諸国と比べても大きな限界がありました。しかし、この「大きな政府」を社会改革の動力源にしようという思想は、ニューディール時代のリベラルに受け継がれていきます。

アメリカの介入で世界を変える

もう1つ、昨今の対テロ戦争や対中対立とも関連して、今日のアメリカの世界との関わり方の原型ができるのも、革新主義の時代です。今触れたセオドア・ローズヴェルト大統領はモンロー・ドクトリンの不干渉主義の原則を再解釈し、特に中米カリブ海地域や東アジアにも進出する方針をとりました。国内で社会改革を推進するのと同様、アメリカの介入によって世界も変えていけるのだという感覚が芽生えていきます。

なかの・こうたろう/東京大学大学院総合文化研究科教授。1967年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程中途退学。博士(文学)。専門はアメリカ近現代史。著書に「20世紀アメリカの夢—世紀転換期から1970年代」「戦争のるつぼ—第一次世界大戦とアメリカニズム」など(撮影・今井康一)

また、もう1人の革新主義の大統領ウッドロー・ウィルソンは、この新しい介入主義に独特の理念的な裏付けを与えていきます。今日でも時折耳にする、「民主政体が平和をもたらし、世界のすべての国が民主的になれば平和が生まれる」とか、「ある民族が自ら民主的な国家を建設する能力がない場合は、アメリカという特別な国が介入して、彼らのために代わって“民主化”を行うのが正義だ」といった考え方が初めて出てきたのもウィルソンの時代です。こうした人類普遍の理想を掲げる外交姿勢は、「リベラルな国際主義」とも呼ばれ、その後のアメリカ外交の1つの軸になっていきます。

革新主義の時代の「改革」のなかで、後の時代のリベラリズムには切り捨てられたものとしては、禁酒運動に代表される文化的・道徳主義的な側面が挙げられます。革新主義の時代にはドンキホーテ的というか、工業化によって失われた昔日の「楽園」を懐かしむ情動のようなものがあり、そうした部分は、より現実主義的で科学的な社会改良を目指したニューディールの時代には力を持たなくなりました。実際、かつて憲法を修正してまで作られた禁酒法は、1933年のフランクリン・ローズヴェルト大統領の就任直後に廃止されてしまいます。

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