「表の世界」を支えることが紛争地域で重要な理由 ミンダナオ和平と「能力構築・能力開発」の目的
このような状況下で上梓された『西太平洋連合のすすめ:日本の「新しい地政学」』(北岡伸一編)では、「米中対立」時代に日本が生き残る道として、日本、東南アジア諸国、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼国などによる「柔らかな民主主義の連合体」として「西太平洋連合」構想を提示している。
本稿では、現在もバンサモロ暫定自治政府首相アドバイザーとしてミンダナオ和平に深くかかわっている落合直之氏と、同書でフィリピンと同構想について論じた高木佑輔氏が、国際協力の視点から語り合う全3回対談の最終回をお届けする(第1回はこちら、第2回はこちら)。
BIMP-EAGAの可能性
高木:西太平洋連合構想は、ある種の地域主義外交の構想です。他方、フィリピンはこれまであまり地域主義外交を意識してこなかったと思います。
唯一あるのが、今となってはブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン東ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)くらいです。ただ、BIMP-EAGAにも新しい動きがみられないわけではありません。インタビューの最後はBIMP-EAGA構想を切り口に、ミンダナオを含む地域のこれまでと今後について考えたいと思います。
落合:フィデル・ラモス大統領(1992~1998年)がBIMP-EAGAを提唱したとき、実は私はフィリピン事務所の中でミンダナオ担当でした。だからまさにBIMP-EAGA構想っていうのが出て、ダバオで会議があるというので、何度かダバオに行きました。そのうえで、今後、BIMP-EAGAが進んでいくのであれば、JICA(国際協力機構)としても積極的に検討するべきというような報告をしていました。
高木:そうだったんですね。当時ラモス大統領のミンダナオ問題担当の補佐官をしていて、現在はADB(アジア開発銀行)理事をしている人にポール・ドミンゲスという方がいますね。
落合:ポール・ドミンゲスは90年代、現在のミンダナオ開発庁(MinDA)の前身であるミンダナオ経済開発公社(MEDCo)の長官でした。当時のJICAフィリピン事務所長に対して、ポール・ドミンゲスは、「ミンダナオを紹介するので3日間ほど時間をくれ」という話を持ち掛けました。ただ、所長は「ちょっと3日間は難しい」となり、突然、私にその話が振られました。ある日「朝5時にマニラの空港に行け」って言われて、そこで待っていたのがポール・ドミンゲスでした。彼の自家用ジェットでミンダナオを巡りました。彼曰く、ミンダナオの開発のためには、マニラも大事だけど、マレーシア、インドネシア、ブルネイっていうのが大事で、交易が非常に重要だということでした。だからBIMP-EAGA構想の中でも、ミンダナオの産品をマニラにばかり持っていくんじゃなくて、直接マレーシアとの交易を増やすべきだというような話をとうとうと語っていました。