「表の世界」を支えることが紛争地域で重要な理由 ミンダナオ和平と「能力構築・能力開発」の目的

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高木:そうなんですね。当時の彼の強い関心がうかがえます。

落合:彼は、地元のドミンゲス家出身で、地場の産業をやっている人でもありますからね。自分たちのファミリービジネスを拡大させていくためにも、南に行くっていうのはきっと当然のことなんでしょうね。

高木:マレーシアのサバ政府としては、住民にフィリピン人が多いこともあり、領事館を置いてほしいというのが長年の要望だと聞いたことがあります。他方、フィリピン政府としては、それをやるとサバ領有権を放棄したことになるからできないという立場がある。

落合:今でもそうなんですかね。

落合直之(おちあい なおゆき)/バンサモロ暫定自治政府首相アドバイザー(JICA専門家)。1963年横浜市生まれ、明治大学政治経済学部政治学科卒業、法政大学大学院政治学研究科政治学修了。1991年国際協力事業団(JICA:現、国際協力機構)入団。東南アジア地域、平和構築、ジェンダー、鉱工業、企画、調達、安全管理を担当する本部部署や海外事務所(フィリピン、ヨルダン)に勤務。在フィリピン日本大使館一等書記官、ミンダナオ国際監視団(IMT)シニア・アドバイザー、JICAバンサモロ包括的能力向上プロジェクト総括を歴任。2016年中曽根康弘賞受賞。著書に『フィリピン・ミンダナオ平和と開発―信頼がつなぐ和平の道程』(佐伯印刷出版事業部)などがある(写真提供:国際協力機構(JICA))

高木:テオドロ・ロクシン外務大臣が、サバはフィリピンのものだとツイートしちゃうぐらいですからそう簡単ではないと思います。

ただ、第1回で伺ったARMM(ムスリム・ミンダナオ自治政府)とMILF(モロ・イスラーム解放戦線)との対立が、実務レベルで解消したことを思い起こせば、フィリピンとマレーシアの中央政府同士では対立しがちな話も、地元の経済開発に注目すれば違う可能性が見えるかもしれません。実際、人はいっぱい動いています。また、2014年には、インドネシアとフィリピンが海上の境界線を確定しました。フィリピン政府は海上境界の画定をどこともやったことがない中、インドネシアと初めてできたということで画期的です。BIMP-EAGAについてもフィリピン、マレーシアの間ではなく、フィリピン、インドネシアのほうから進めていくという手もあるかなという気もします。

落合:マレーシアはMILFと近く、インドネシアはMILFがたもとを分かったモロ民族解放戦線(MNLF)と近いという話もあります。私がいたIMT(ミンダナオ国際監視団)にも、最後のほうにインドネシアが参加しましたけど、インドネシアは最初からダバオを見るって言っていて、実際IMTダバオを作りました。

高木:インドネシア側からすると重要だったんでしょうか。

落合:ミンダナオに住むインドネシア人は少なくありません。マレーシアもインドネシアもダバオに総領事館を持っています。

高木:やはりミンダナオから見て西側のマレーシア、南側のインドネシア、この両国との関係強化にはいろいろな可能性がありそうです。

伝統的政治家一族による投資促進

高木:ミンダナオ島というと、マニラに住むフィリピン人の間ですら紛争の島という印象があります。そうした中、ミンダナオの経済開発にはどのような展望をお持ちでしょうか。

落合:BTA(バンサモロ暫定自治政府)の中にも投資委員会があります。フィリピン政府貿易産業省傘下の投資委員会のバンサモロ版です。そこの委員長をやってるのはイシャック・マストゥラっていう人です。彼は有能で、いろんな人的ネットワークもあります。今、もう専ら関心があるのはマニラからの投資ですが、将来的には海外も視野に入っています。

高木:伝統的政治家も世代交代して、結構ビジネス志向の人もいるようですね。

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