「表の世界」を支えることが紛争地域で重要な理由 ミンダナオ和平と「能力構築・能力開発」の目的
落合:もう亡くなりましたが、トト・パグラスという政治家がいました。彼は、自分の名前が町の名前についているような伝統的な政治家一族の一員ですけども、これまでと同じことをやってたら自分たちが滅ぶだろうという危機感を持っていた。そこで、何をするかと考え、外資を呼び込みました。そしたら、町の人口も増えました。あの町に行けば仕事もあるし、パグラスに行けば町が自分の家族の面倒を見てくれるという評判が立ちました。さらに、このパグラスの成功例を実際に見に来て、学んで、それをやろうとしてる町も徐々に増えてる。周辺の町の町長も視察に来て、パグラスの発展を学んだ首長たちも結構います。
紛争地での開発協力の目標
高木:そうした先進的な事例を見ると、紛争と開発との関係についていろいろと考えさせられます。有力政治家の多くは合法、非合法にグレーな事業も含めてしたたかに生き抜いている。そうした場所における能力構築の目的はどこに定めるべきでしょうか。
落合:政治家一族が昔からしたたかに儲けているっていうのは今でも変わらないんだと思います。裏のビジネスっていうのは、もう昔からあるし、今でもあると思うんですけども、これは私というかJICAもそういう世界を理解しようとしたし、一定程度理解しています。もちろんそこに直接的に手を出すことはないですが、本当はそこが変わっていかないと、本来の意味での貧困は解消しないんだと思います。そこに対して、JICAが直接手を突っ込んでいくわけにはいかないので、表のビジネスをしっかり支えていくことが重要だと考えます。実際、表のビジネスがだんだん拡大していって、やばそうな政治家一族なんかも、だんだんその表のビジネスに登場し始めています。
高木:表ビジネスが大きくなってきていて、それを支援すれば、やがて裏のビジネスも減っていくことに賭ける。裏表をはっきりさせるとか、悪いところを制裁しようとかしないということでしょうか。
落合:そこは賛否両論、われわれJICAの中にもあると思います。でも少なくとも私は、そこを騒ぎ立てるわけではないです。もちろん、なぜそういう状況になってるかは、ちゃんと理解するべきだとは思っています。私も、それこそ以前の現場にいたときの私のスタッフの女性の兄弟が、そういう世界で殺されたとか、そういうのは普通に聞くわけです。
ただ、その世界をすぐに変えることはできないし、われわれもそれをすぐ変えられるような術も持ってない。われわれが何かできるかといえば、そういう世界でないところをどんどん増やしていくことだと思います。実際、そういう世界じゃない世界を増やそうとしてる人々もたくさんいますから。
高木:お話を伺って、悪いことやってる人をたたくんじゃなくて、いいことやってる人を何とか支えていくことの重要性に気づかされました。一方的に援助の手を差し伸べるということではなく、現地を知り、困難な状況の中でも前を向く人たちと協力することこそ、能力構築や能力開発の目的であると教わったように思います。
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