ミンダナオ和平の現場から考える「西太平洋連合」 「紛争影響地域」における「国際開発協力」の役割
このような状況下で上梓された『西太平洋連合のすすめ:日本の「新しい地政学」』(北岡伸一編)では、「米中対立」時代に日本が生き残る道として、日本、東南アジア諸国、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼国などによる「柔らかな民主主義の連合体」として「西太平洋連合」構想を提示している。
本稿では、現在もバンサモロ暫定自治政府首相アドバイザーとしてミンダナオ和平に深くかかわっている落合直之氏と、同書でフィリピンと同構想について論じた高木佑輔氏が、国際協力の視点から語り合う全3回対談の第1回をお届けする。
ミンダナオ和平協力の現場から考える
高木:本書『西太平洋連合のすすめ:日本の「新しい地政学」』の中で、私は「西太平洋連合とフィリピンの地域主義外交」を担当しました。
この中で、フィリピンが西太平洋連合のような枠組みに参加するきっかけは2つあると指摘しました。
1つは、これまで培ってきた日比間の良好な2国間関係を軸としながら、多国間協力の枠組みに広げていくことです。
もう1つはフィリピンからの視点です。そもそもフィリピンは、必ずしもASEAN外交に積極的ではありませんでした。そうした中、地理的な近接性もあり、ミンダナオ島と、その南西部に広がるスールー海とスラウェシ海(英語名セレベス海)を舞台とする地域外交には例外的に積極的と言えます。
これらの点を合わせて考えると、日本が過去20年近くにわたって積極的にかかわったミンダナオ和平に何かヒントがあるのではないかと考えました。その現場を知る落合さんのご知見を伺いたいというのが、今回のインタビューの背景の1つです。
もう1つ、JICAで長く勤務されてきた落合さんに伺いたいのは、国際協力の文献でしばしば見る能力構築(キャパシティ・ビルディング)や能力開発(キャパシティ・ディベロップメント)という言葉の意味するところを、現場からの視点でとらえたいということです。