ミンダナオ和平の現場から考える「西太平洋連合」 「紛争影響地域」における「国際開発協力」の役割

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変に色眼鏡で見られても嫌だし、それは後々、困ることになるから。公平中立という立場を大切にしながら、いろんな方々と知り合いました。

実務家レベルの開発協力が政治対立を乗り越える

高木:落合さんは、ご自身の経験を『フィリピン・ミンダナオ平和と開発―信頼がつなぐ和平の道程』として出版されています。この本を読むと、まさに公平性と中立性を重視することで様々な利害関係者から信頼を獲得していったことがよく分かります。例えば、暫定政府設立にあたって、もともとあったムスリム・ミンダナオ自治政府(ARMM)と、新たに組織されるはずのバンサモロ暫定自治政府(BTA)は当初はしっくり来ていなかったこと、それが徐々に協力関係を築いていったことが分かります。こうした協力関係が生まれる過程で日本はどのような役割を果たしたのでしょうか。

落合:具体的には営農指導や様々な研修です。そうした際には、BTAの中核となるであろうMILF系の人々も呼び、それからARMMの行政官の人々も一緒にやりました。一緒にするというのは、意識的に両者が出会う場をつくったということです。政治レベルになると、ムジブ・ハタマンARMM知事対ムラド・イブラヒムMILF議長という図式になり、もうそこはある種の緊張関係がありました。他方、実務レベルは、そんなこともなくて、学ぶことがあるんであれば、ぜひ参加したいという人々は少なからずいたのです。

高木佑輔(たかぎ ゆうすけ)/政策研究大学院大学准教授。1981年群馬県生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位修得退学。博士(法学)。在フィリピン日本大使館専門調査員、デ・ラサール大学教養学部国際研究科助教授等を経て現職。専門は東南アジアを中心とする新興国の政治と外交。主な著書に、Central Banking as State Building: Policymakers and Their Nationalism in the Philippines, 1933-1964.(Singapore: National University of Singapore Press, Kyoto: Kyoto University Press, Quezon City: Ateneo de Manila University Press, 2016. 第34回大平正芳記念賞受賞)、『国際協力の戦後史』(共編、東洋経済新報社、2020年)などがある(撮影:尾形文繫)

高木:実際には政治家が気付いてやめろみたいなことはなかったのですか。

落合:言われました。ただ、そこは「そうは言っても」とか適宜対応してたんです。まともに対応すると、それこそ政治問題になるので。できる限りムジブ・ハタマン知事を懐柔しながら。「そうは言ったって、みんなハッピーだし」とか。「すぐ終わりますから」と言ったりしてました。実際は全然終わらないんですが(笑)。

高木:そこはやはり落合さんが築いた信頼が重要だったわけですね。

落合:私もあるとは思いますけど、そこはJICAの看板も重要です。「JICAを信用してください、変なふうにしませんから」という説明は効いていたと思います。

高木:これまでの対立の経緯、MILFとの和平合意締結から暫定政府設立までの流れを見ていて、それまであったARMMの人たちをどういうふうに前向きに巻き込んでいくのかは大きな課題だろうなと感じていました。

落合:そうですね。ただ、当時のARMM自治政府の職員の中には、MILF系の人々がたくさんいたんです。だから対立構造としてMILF対ARMMっていうのが必ずしもあったわけではありません。もちろん、政治的なレベルでうまくいかない部分はあったと思います。ただ、その当時であっても実務者レベルではARMMで働いてる局長、あるいは、それ以下の人々は、別にMILFと対立してARMMで働いてるわけではありませんでした。今、BTAの中の幹部クラスと実務者クラスが、何か敵対関係にあるっていうわけでは基本的にはないと思います。

高木:対立の当事者たちを無理に和解させるのではなく、開発という両者が関心を持つ事項を見出し、開発協力の場を提供することで対立構図とは違う人間関係が出来上がったように思います。対立のどちらかに肩入れするのではなく、両者が関心を持つ事業に集中したことが成功につながったといえそうですね。

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