ミンダナオ和平の現場から考える「西太平洋連合」 「紛争影響地域」における「国際開発協力」の役割
私自身としては、西太平洋連合構想を進めるとすれば、この地域に多い新興国や途上国の能力構築や能力開発は極めて重要な課題だと考えています。他方、これらの言葉が具体的に何を意味するのか、実はつかみにくいというもどかしさも感じています。インタビューを通じて、これらの概念を具体的に理解したいというのが2つ目の狙いです。
まず、今の落合さんのお仕事の内容をお聞かせいただけますか。
落合:2014年、ミンダナオ島を中心に長い間反政府武装闘争を続けてきたモロ・イスラーム解放戦線(MILF)とフィリピン政府は和平合意を結びました。その後、紆余曲折を経てバンサモロ自治区の範囲を決める住民投票が行われました。それを踏まえ、2019年にバンサモロ暫定自治政府(BTA)が発足しました。
その暫定自治政府から、フィリピンの中央政府を通じて、日本政府にBTA首相アドバイザー(Adviser to BTA Chief Minister)という肩書での専門家要請があり、4月中旬に私が派遣されました。私の仕事はいろんなアドバイスをすることですが、偉そうに、「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」というわけではなく、何かのアイディアを実現するため、まさにキャパシティーデベロップメントとかキャパシティービルディングを目的に何かのセミナーをやったり、ワークショップをやったりしています。
現場での信頼をつくる
高木:暫定自治政府の首相アドバイザーのポストは1つしかないと聞いています。こうしたことも、JICAがこれまで積み上げてきた信頼の重みを感じるわけですが、これまでの活動の中で、今につながるような関係ができたきっかけはありますか。
落合:ある種の信頼の構築だと思います。私自身は、1990年代からJICA職員として様々な立場でフィリピンへの開発協力に関わりました。中でも画期的だったのは、IMT要員としての経験です。IMTとは、2004年に停戦監視を目的に発足したミンダナオ国際監視団のことです。私がIMT要員だったのは2010年の頃ですけど、その頃は、呼ばれたら行く、あるいは呼ばれなくても行くという姿勢でした。
そのときに気を付けていたのは、紛争の片方の当事者のみに肩入れしているような行動を避けることでした。お会いする皆さんに必ず言ったのは、私は、いわゆる八方美人ですということです。「ムスリムの人々だけに会ってるだけではありません。クリスチャンにも会ってるし、フィリピン政府の人も会いますし、呼ばれたらどんな人のところにも行きます」と伝えてたんですね。