近年、障害や病気のある家族などの介護を主に担う18歳未満の人々、いわゆる「ヤングケアラー」の存在が、徐々に社会的な注目を浴びるようになってきた。今年3月に公表された国の調査によると、中学生の約17人に1人、高校生では約24人に1人がヤングケアラーだという。
また2019年公表の国の調査では、ヤングケアラーにおける生活保護受給世帯が29.6%、ひとり親世帯が48.6%とも報告され、貧困とも密接に関係すると考えられる。国も支援策を検討しており、少しずつ支援の輪が広がってきている。
一方で、ヤングケアラー以上に認知度が低いのが、18歳からおおむね30代までの介護者である「若者ケアラー」だ。進学や就職に際し、収入に直結する選択を迫られる時期でもあり、その中で介護を担わなければならない負担は大きい。しかし若者ケアラーを対象とした公共的な支援は少なく、ケアラー全体を支援する埼玉県や北海道栗山町、20代も含めた「こども・若者ケアラー」を支援する兵庫県神戸市などのわずかな例があるのみだ。若者ケアラーに絞った調査や統計資料も乏しく、全体像がつかみにくい状況だ。
貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「
見過ごされる若者の貧困」3日目の第3回は、ライターの大河内光明氏が若者ケアラーの実像に迫った(1日目、2日目の記事は
こちらからご覧ください)。
半年から1年周期で状態が変わる母
20代後半の男性Aさんは、物心ついたときから実の父がおらず、母の元で育てられた。平穏だった生活が一変したのは10歳のとき。母にうつ病(のちに双極性障害と判明)の診断がおりたのである。
元々「責任感のある完璧な人だった」という母だが、家族間での言い争いが増え、再婚した義父とは離婚し、一緒に暮らしていた祖母とも別居。さらに親戚からも離縁され、結果的に母との2人暮らしになった。
リストカットや飛び降り、過剰服薬など、たびたび自殺未遂を起こす母を子どもながらにケアする日々。経済的にも苦しかった。母は半年から1年周期で躁状態とうつ状態を繰り返した。
躁状態のときは働きに出られるが、うつ状態のときは寝込んでしまって仕事ができなくなる。このように就業状態が不安定だったため、中学、高校生活では生活保護を受給した。
「学校生活では自分だけ学食で定食を頼めなかったり、病院に行くにも医療券だったり、肩身が狭かったです。役所などでの手続きも、母が動けないときは私が代わりに行く必要があり、思い返すと不自由でした。自分がしっかりしないと終わりだと思っていました。子どもながら、緊張感のある生活でしたね」
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