社長求む、年俸3500万円から--ユーシンが後継者を新聞広告で公募へ
自動車部品メーカーのユーシンは、田邊耕二社長(76歳)の後継者として、新聞広告で後任社長を公募する方針を固めた。東証1部上場企業が社長を公募するのは極めて異例だ。
田邊社長は創業家2代目。2006年まで30年にわたり社長を務めた後、当時筆頭株主だった投資ファンド・RHJインターナショナルが派遣した竹辺圭祐・前社長に経営を譲り、ひとたびは最高顧問に退いた。
だが竹辺氏が巨額を投じてRHJ系の部品メーカーを買収しようとしたことに、田邊氏は「価値があわない」と反発。竹辺氏は取締役会で事実上の解任に追い込まれる顛末となった。その後、田邊氏が社長復帰、対立を受けRHJは保有株を断続的に売却し10年2月頃にユーシンから完全撤退している。
ユーシンの今10年11月期は自動車生産の底打ちや調達見直しなどが奏功し、過去最高純益が見込まれる回復ぶり。こういった中、田邊社長は最後に残った経営課題ともいえる後継者選出に乗り出したわけだ。それにしてもなぜ公募なのか--。奇手を選んだ経緯を、田邊社長が「東洋経済オンライン」のインタビューで明らかにした。
■育ちがよく英語堪能な人材を求める
--なぜ公募なのか
ユーシンは公開会社であり、優秀な人材を採用する義務がある。社内にはちょっとそういう人がいない。また、ヘッドハンターは登録した人しか知らない。だが広告は誰もが見るので、対象人材が広くなる。年収3500万円以上という条件なら受けたくなる人もいるかもしれない。取締役会では(公募について)特に異論は出なかった。
グローバル競争の時代になると、会社の成長は舵取りで決まる。最も良い人を社長に据えるのがステークホルダーにとっても良いことだ。
--上場企業の経営を、条件で選んだ人材に任せられるのか。また、以前は資産家であることもあげていたが?
お金はあれば望ましいが必須ではない。政治家も経営者も必要なものは同じ。頭が良く判断力があれば大丈夫だ。経営者というのは何をするにもリスクを伴う。そのリスクを見極める判断力は先天的なものだ。学歴は不問だが、9割以上受験者は大卒になるだろう。
--過去、RHJが派遣した社長を解任した経緯がある。全く面識のない人物を公募して、再び外部の人物をユーシンの社長に就任するというのは同じ過ちを繰り返すのではないか?
過去の場合、誰も監視する人がいなかったので、ああいったことになってしまった。今回は問題は大丈夫。役員会でコンプライアンス委員会を設け、毎月チェックするようなルール作りを考えている。ここはあまり心配していない。心配事があるとすれば思ったほど優秀な人が集まらなかった場合ぐらいだ。
--選考方法は。
日本経済新聞と読売新聞の7月25日付の全国版で広告を出す。求める人材は頭のよい人、育ちのよい人、英語に堪能な人、体が丈夫な人だ。何人応募するかで異なるが、100人ぐらいは集まるだろう。
広告を出した後、8月10日まで募集をかける。応募者全員と2時間ぐらいの1次面接をする。その中から14~15人ほどの優秀な人物を選ぶ。次にユーシンの今後について考えを文章にまとめてもらい、それをもって2次面接を行う。最終的に1~2人の社長候補を選びたい。1年かけて会社のことを覚えた後、社長になってもらう。2人いれば1人は社長、もう1人は副社長と考えている。
--日本人でなくてもよいか。
日本語が話せれば特に日本人でなくてもよい。年齢は30~40代。日本は政治家も経営者も歳を取りすぎている。私は来た人の様子をしばらく見て、会長か顧問に退く。
--次の経営者の年俸の考え方は。
ユーシンは前から安く、日本の場合は仕事が出来る人は給料が安いと言うべきだろう。次の社長が(将来的に)1億~2億円もらう可能性は充分にあり得る。儲かっている企業にとってそれぐらいの額は問題ないだろう。ただ報酬はそれなりに払うが、報酬の多寡よりも企業を経営したいという人に来てほしい。
■RHJ撤退を取引先も喜んでいる
--RHJが全面撤退したことで、経営を取り巻く環境はどう変わったか。
RHJはユーシンの株を80億円で買って、 40億円で売った。RHJ対策とM&A用にコミットメントラインを結ぶなど現金を積み増していたが、撤退を受けて大分減らした。ユーシンの株は機関投資家や横河ブリッジホールディングスなどいろいろな方に引き取ってもらった。RHJが撤退して、自動車メーカーも資本面の不安が無くなり、安心して取引ができると喜んでいた。
--足元の業績は好調だ。
08年12月に始めた、3年で調達先を半減させ、調達価格を2割下げる見直し活動の効果が大きかった。エコカー補助金打ち切り(10年9月末)後の反動減はあるかもしれないが、それを踏まえても期末の10~11月もそんなに悪くはならないだろう。
自動車メーカーの注文はスペックで決まるが、ユーシンはそのスペックを満たしながらも、利益の出せる製造法を熟知している。さらに2期先までの受注が取れているので、業績は順調に推移するだろう。
--20年に売上高2000億円を目指す中期計画を掲げている。
2000億円という規模には根拠がない。今後もどんどん海外の企業に納品を拡大して、取引先を増やすことでグローバル企業として成長していく。これぐらいの規模がなければ競争を勝ち抜けない。もうひとつはM&Aだ。欧州では仏ヴァレオがキーセット部門を売りたいという話が出ている。独キーケードという銀行の支援下にある会社も近々売りに出ると伝えられている。どちらも当社と同等以上の規模だが、こういった会社がM&Aできるか、今後選ぶ新社長に考えてもらいたい。
--最高益更新で、今期の配当計画は。
配当政策に見直しはない。ただ最近、日産自動車と現代自動車に猛烈な売り込みをかけている。どちらか1社でも受注が獲得できれば、2円増配したい。これは投資家の皆さんに約束したことだ。2社とも獲得できればさらに増配を考える。中国の東風日産の商用車部門で(競合メーカーの)アルファから仕事を奪ったが、まだ日産本体には入れてない。
(松浦 大 =東洋経済オンライン)
《東洋経済・最新業績予想》
(百万円) 売 上 営業利益 経常利益 当期利益
連本2009.11 50,964 1,166 564 -927
連本2010.11予 60,000 4,800 4,300 2,500
連本2011.11予 68,000 5,500 5,400 3,200
連中2010.05 30,207 2,760 2,742 1,738
連中2011.05予 33,000 2,800 2,750 1,700
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1株益¥ 1株配¥
連本2009.11 -29.0 8
連本2010.11予 81.7 8-12
連本2011.11予 104.6 8-12
連中2010.05 56.1 4
連中2011.05予 55.6 4
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