「小保方問題」は問題?問題ではない?

【特別対談】やまもといちろう×茂木健一郎

茂木:ああ、僕はそこが理解できないんですよ。過去のシェーン事件(2002年に起こったアメリカ・ベル研究所のヤン・ヘンドリック・シェーンによる論文捏造疑惑)や常温核融合などのパターンを見ても、研究者本人は「捏造だった」とは認めていませんよ。僕はそれでいいと思っているんです。他の研究者が実験してみて再現できなければ、その研究は消えていくだけ。それでもういいじゃないですか。

「ほかの真面目にやってる研究者たちがどうのこうの」という議論が出てくる理由がわからない。彼女がユニットリーダーというポジションを得た経緯がダメだっていうのも、「どうしてみんなが同じプロトコルで職を与えられなくちゃいけないの?」と思う。「みんな同じ基準でやることが公平で正しい」という考えは、日本人の病気だと思ってるんですよ。偏差値教育もそうですけど。

山本:そう思われるのは、茂木さん自身が「跳ねてる」というか、ある種、ご自身の高い能力で研究活動で成果を挙げられ、様々なものを築き上げて、いまのポジションを得ているからなのでは、とも思いますけど。

国力を引き上げるために何が必要か

茂木:今回の場合は、笹井さんの責任で小保方さんをリーダーに据えて研究をしていたわけですよね。それが成功だったか失敗だったかはともかく、僕にとってはそれ以上にもそれ以下にも思えないんです。

マイケル・サンデルは『Justice』(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)の中でこんな議論をしているんですよ。「ハーバード大に、成績はまあまあだけど、家がお金持ちの家の子が入学を希望してきた。もし入れてくれたらビルをひとつ寄付すると言っている。その学生の入学をその条件を考慮に入れて判断することは正しいでしょうか」と。こういう議論があるということは、少なくとも選択肢としては、「あり」なんですよ。

そして僕自身、そういう経営判断をすること自体は「あり」だと思っているんです。もちろん、そういうことをやりすぎると、大学の評判が落ちますよね。今回の理研の話も、小保方さんを採用したのは理研の判断であって、そのことによって評判が上がったらそれでよかったし、落ちたのならしかたない。それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。

山本:はい。ですから「理研の評判が落ちてしまったので、判断として間違っていたのでは?」という話をしているんです。仕方ない、で済ませることなく、もう少しできることはあったであろうし、現にいまもぐだぐだやっている現状は解決していかないと。

茂木:それは結果論じゃないですか。それに、面接について「英語での口頭試問がなかった」なんて、ちまちました話ですよ。そういう批判に夢中になっている日本人ははっきり言って「バカ」だと思うんだよね。まったく戦略性がないし、分析的思考のかけらもない。そうした批判をいくら熱心にしたところで、日本の国力が上がるかと言えば、上がらないでしょう。日本で「自分がエリートだと思っている」人たちって、海外のいわゆるベスト・アンド・ブライテスト(聡明なエリート層)から見ると、かなり見劣りすると思いますよ。

山本:うーん、リスクバランスが非常に欠けているというのは、私も感じているところではあるんですけど。それに、国力を引き上げることが重要だというのも同意します。

茂木:山本さんは、引き上げてようとしてるの?

山本:そうですね。ただ私の考えでは、平均値を上げないことには全体のクオリティが保てないと思うんです。裾野がせまければ、ピークに立てるエリートの数も少なくなるわけで。

茂木:サッカー選手は、ワールドカップに出ているトップ選手のパフォーマンスを見て自分たちに何が足りないのか気がつくわけだから、他の分野の人も同じだと思うんだよね。ごちゃごちゃ言わなくても、「すごい人の背中を見て、あとはそれぞれで考えて」でいいかなと思っているんだけど。

山本:もちろんピラミッドの高みをどんどん高くしていって、あとは自然についてくるのを待つ方法もあると思いますけど、一方で高みを上げるためには、そもそもの競争環境を改善していかなければならないとも思います。みんな、意外と打たれ弱かったりするわけじゃないですか。専門家たちも、ツイッターで罵声を浴びせられて嫌になったりしている人も多いはずです。そういう環境をどうにかするというのも、これからの日本を考える上でのひとつの重要命題だと思います。

※この対談の続きは、やまもといちろうさんのメルマガ「人間迷路」で連載されています。

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