英国で初めての新型コロナ感染による死亡が発生したのが、2020年3月5日。それから1カ月以内に死亡件数は5000人を超え、英国のコロナ感染は完全に制御不能に陥った。
英国にとって最大の問題は、医療従事者の確保だった。コロナ感染の発生以前から、4万人の看護師と、9000人の医師が不足している状況で、そこにコロナ感染が勃発して、大至急、大量の医療従事者の確保が必須となった。
医学生、看護学生をコロナ病棟へ派遣
引退した看護師や医師を呼び戻したところで焼け石に水にすぎない。とうとう切羽詰まった国から出された指示は「医学生、看護学生のコロナ医療への動員」だった。卒業間近の医学生を繰り上げて卒業させ、看護学生の2年生より上は「有償実習」という形が取られた。
2年生と3年生の前半までは看護助手の待遇で、主に患者介護を担当し、3年生の後半からは、監視のもとに看護業務を行う新人看護師の待遇だった。これは正直、新型コロナ前からの役割とそれほど変わらない。
看護学生は一般病棟はもちろん、救急外来、コロナ病棟、ICU(集中治療室)、どこにでも配属された。1年生のときから看護実習で実践的な教育を受けている英国の看護学生は、2年生であれば少々の監督で即戦力として動くことができる。事実、人手不足の病院で、看護学生の存在はとてもありがたいものだ。
国から医学生、看護学生を動員する決定が出されて間もなく、彼らを称えるニュースが大々的に流れるようになった。まさにそれは、「医学生、看護学生が歴史的なコロナと闘うために前線へ出陣!」だった。
大学もそれに続いた。「コロナ前線で懸命の看護にあたる当大学の看護学生たち!」「コロナ前線で戦う当大学のヒーローたち、看護学生と助産学生!」「コロナ病棟での実習は得がたい貴重な経験となりました! 当大学の学生の経験談」――。当時の新聞はこうしたニュースで連日あふれていた。ほほ笑む学生の名前やコメントが顔写真付きで紹介され、どれを見ても現場で闘う士気にあふれる印象でいっぱいだった。
だが、実際に現場にいる筆者を含めたスタッフには、違和感を覚えるニュースでもあった。詳しくは後述するが、実際にコロナ病棟に配置されていた複数の看護学生とはまったく違う印象だったのだ。
そして、「有償実習」は経済的な問題と長引くコロナにより、4カ月で終了した。その後は最も厳しかった2次ピークも含め、看護学生に賃金は支給されておらず、無償でコロナ病棟やICUに配置されている。
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