ところが、『1940年体制』が出版されたころから、戦後日本の発展は戦時経済の延長だという見方が広まっていき、「日本型システムが日本をダメにしている」と言われるようになりました。それで、戦時体制を否定することこそ日本が真に反省することにつながるという話になり、左派も構造改革を後押しするようになった。私が大学生のころはみんな日本型を礼賛していたのに、大学院に入るころにはみんな日本型を批判するようになっていた。「これはいったい何なんだ」と思ったものです。
実はこれは日本に限った話ではありません。同じような動きは諸外国でも見られました。
最近イギリスの事例を調べていたのですが、イギリスでも日本と同じような戦時体制論が唱えられていました。サッチャーも、イギリスの資本主義は本来はもっと自由で独創的で個人主義的なはずなのに、戦時体制の名残のせいでイギリス経済はダメになってしまったと批判しているんですよ。
中野:イギリスは日本と違って第2次世界大戦に負けていませんが、ほとんど負けかかっていたので、戦時体制に対してあまり良い思いがないのかもしれませんね。
柴山:そういうことだと思います。彼らからすれば、この体制を維持している限り、自分たちは負け続けるということになるわけです。それで新自由主義が採用されることになった。また、アメリカはアメリカで、80年代は日本に経済的に負けてしまったので、いまの体制のままではダメだという話になって、新自由主義に突き進んでいった。どの国も従来の体制を戦時体制の延長と捉えていたのです。
日本の発展は官僚主導だったのか
柴山:しかし問題は、本当に戦時体制論が正しいのかということです。戦後日本の発展は、本当に官僚主導のものだったのか。
当時民間企業で働いていた経営者にヒアリングしたことがありますが、彼らが共通して言っていたのは、もちろん官僚がいろいろサポートしてくれたことは間違いないが、やはり民間の競争が大きかったということです。実際、あのころは過当競争が問題になっていましたからね。戦後の経済発展が官僚主導だったという認識は間違いだと思います。
中野:その通りです。だいたい、官僚がそんなに強くて優秀だったら、官僚批判や構造改革を許すはずがありません(笑)。官僚の力がそれほど大きくなかったから、官僚批判を止められず、新自由主義が広まっていったんですよ。