自動車「生産急減」が雇用と経済に落とす超暗い影 自動車大国が受ける痛みは経済の全身に広がる

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オンタリオ州にあるステランティスの工場もそうだが、自動車工場は地域最大の民間雇用主であることが多い。だからこそ、操業が止まると、すさまじい影響が出る。自動車工場は地域経済の中で圧倒的な存在感を持っていることが通例であり、その穴は簡単には埋められない。国際通貨基金(IMF)の2019年の調査によれば、自動車工場の操業停止による失業の影響は何年も続くという。

コンサルティング会社アリックス・パートナーズは、今年の自動車生産は部品不足により770万台減少し、自動車産業は全体として2100億ドル(約24兆円)の売り上げを失うと試算している。

自動車と自動車部品の生産は、世界では比較的少数の国に集中している。具体的にはアメリカや中国などだが、そこにはタイのようにそこまで大きくない国々も含まれる。

フォルクスワーゲン、プジョー、起亜(キア)の大きな工場があるスロバキアは年間100万台の自動車を生産しているが、人口はわずか540万人。人口当たりの自動車生産は世界最多で、自動車が全輸出の3分の1以上と、自動車依存度が極めて高い。

トラック不足も経済の足かせに

部品や原材料の不足が長引けば、それだけ経済への影響も深刻化することになる。現代の経済は車がないと機能しないためだ。物流に不可欠のトラックも最近は入手が難しくなっており、経済成長の足かせになっている。

ダイムラーのトラック部門トップ、マーティン・ダウム氏は「西ヨーロッパと北アメリカは、基本的に来年まで売り切れ状態だ」と、半導体不足の影響を語る。

この危機が近く終息する気配はない。半導体メーカーは供給量を増やすと約束しているが、新工場の建設には数年を要する。さらに、自動車関連企業は必ずしも半導体メーカーにとって最重要顧客というわけでもない。

ペンシルベニア大学ウォートンスクールのガッド・アロン教授が言う。「半導体メーカーが優先するのはアップルやヒューレット・パッカード(HP)といった世界的なIT企業であって、フォードなどではない」。

(執筆:Jack Ewing記者、Patricia Cohen記者)
(C)2021 The New York Times Company

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