半導体メーカーTSMCが日本に工場を設置する理由 熊本に8000億円規模の工場建設、水面下で進められた日台関係強化

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2019年11月、最先端の半導体技術の共同研究に向けた協定を締結し、握手する東京大学の五神真学長(左、当時)と台湾TSMCのマーク・リュウ会長

2021年10月14日、半導体の受託生産で世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は、かねてより報じられていた日本への半導体製造工場の建設について、ついにその方針を明らかにした。同社が日本に生産拠点を置くのは初である。

建設予定地は熊本県。2022年に着工、2024年に稼働と計画されており、22ナノメートルと28ナノメートルプロセスの半導体が生産されるという。20ナノメートルプロセスの半導体は、スマートフォンに搭載される最先端の半導体と比較すると数世代前の技術だが、自動車や産業分野で需要が見込まれる技術だ。TSMCの日本工場で製造される半導体は、主にソニーのイメージセンサーとトヨタの車載半導体として供給されるだろう。

TSMCの日本工場建設への総投資額は7000〜8000億円にのぼる見通しだ。ソニーが少額出資を検討していると伝えられているが、驚くべきは日本政府が最大で総投資額の50%、金額にして最大4000億円を補助する方向で調整しているということだ。この記録的な特別支出の財源は、2021年10月末の衆院選後に編成する2021年度補正予算案に盛り込まれ、通過する予定だ。

自民党政権がTSMCの誘致に成功した背景には、2年前に発表された同社と東京大学の共同研究に端を発する協力関係があったことが大きい。そして、日本の半導体材料の製造とパッケージング技術の優位性、そして経済産業省が6月に発表した産業政策「半導体・デジタル産業戦略」も大きな後押しとなった。

東京大学との協同研究が下地に

新型コロナウイルス流行前夜の2019年11月。アメリカ政府がTSMCの誘致を検討しているというニュースを差し置いて、大きな注目を集めたのが東京大学とTSMCが発表した先端半導体技術の共同研究のための提携だった。

この「東京大学・TSMC 先進半導体アライアンス」では、東大に新たに研究センター「d.lab(ディーラボ)」が設立され、TSMCはd.labに試作支援プログラムを提供。d.labは、チップ設計の工程にTSMCのオープン・イノベーション・プラットフォームを採用した。また、双方の研究者による共同研究のためのプラットフォームを構築。材料、物理、化学など他の領域でも協力し半導体の微細化を進めていくとともに、半導体技術全体のさらなる革新につながる他のアプローチも模索している。

両者の提携について東京大学総長(当時)の五神真氏は「知識集約型社会へのパラダイムシフトを目指す日本の産業界が、本アライアンスを活用して世界最先端の半導体製造工場とつながることは、Society5.0 のいち早い実現に資するもの」とコメントした。また、TSMC会長の劉徳音(マーク・リュウ)氏は「半導体産業では技術向上のためにさまざまな方法が模索されており、TSMC は世界中の一流学術機関と積極的に提携している。TSMCの半導体産業における役割は、より多くのイノべーターが力を発揮できるよう支援することだ。TSMCと東京大学の提携により、多くのイノベーティブなアイデアが製品へと結びつけられることを確信している」 と期待を寄せた。

その後、新型コロナウイルスの流行が本格化し、世界中が半導体不足に悩まされるなか、その水面下で半導体分野における日台の協力関係は深められていった。TSMCは2021年2月の取締役会で、研究拡大に向け日本に100%子会社を設立することを決定。研究開発拠点が茨城県つくば市に置かれることになり、日本とTSMCの関係強化に大きく寄与した。

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