住宅大手が「過去の苦い経験」越え海外進出のワケ 短期施工や品質の高さが追い風になっている

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「日本の住宅は品質が高い?」と疑念を持つ方もいるだろうが、例えば最も主要な進出先となっているアメリカでも、住宅を供給する会社は基本的に開発業者(デベロッパー)的要素が強く、建築そのものは下請け業者任せだ。

オーストラリアの現地企業が建てた住宅の様子。この画像を見れば、品質などについてあまり重視していないことがなんとなく理解いただけるのではないだろうか(筆者撮影)

そのため、1棟1棟の施工の品質や効率はあまり高くないのが実情。筆者はこれまで、アメリカを含む複数の国の施工の様子を見る機会があったが、ハウスメーカーのみならず日本の住宅事業者のそれは概して海外より高い水準にある。

これは、日本が地震大国であり、住宅の品質などについて消費者が求めるレベルが非常に高いことによる。いわば厳しい市場環境で鍛えられてきたことが、ハウスメーカーによる海外進出の素地となっているわけだ。

なお、日本では住宅の施工期間は平均で3~4カ月程度で、早いハウスメーカーでは約1カ月で竣工することもある。しかし、海外では施工期間が3カ月以上になることはざらで、6カ月を超えることもまれではない。

事業拡大には課題やリスクも

もちろん、課題やリスクも当然数多く存在する。住まいはその国の風土や歴史に根ざすもの。ニーズの違いはもちろん、建築法規や建築システムも異なることから、他国の住宅企業が参入するのには高いハードルがある。

このため、日本の住まいづくりの手法が容易に通用するものではなく、現状では基本的に各国・地域の在来工法に日本的な手法を一部に加えながら展開するにとどまっているのが現状。このため、持ち味をより発揮できるようにすることが重要になるだろう。

技術の進化が今後、世界の住宅供給のかたちをどのように変えていくのかも影響しそうだ。例えば、建築分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴とも言える3Dプリンターを活用した建築がある。

海外ではいくつかの事例が見られるようになっているようだが、これが本格的に普及すれば現在より大幅な効率化、つまり建築従事者の削減が可能になると考えられる。これは現状の工業化技術を活用した住宅供給より、さらなる効率化を可能にするだろう。

この話を、住宅業界関係者に振るとそれこそ鼻で笑われるのだが、直近はともかく10年後はおろか、数年後に普及している可能性も否定はできない。それくらいデジタル技術の進展は急速だからだ。

とはいえ、かつては海外の人から「ウサギ小屋」と揶揄されていた住宅を供給してきたハウスメーカーが、海外で存在感を高めつつあるのは確か。今後、さらに活躍するフィールドが増えるのではないかと筆者は考えている。

というのも、日本は世界で最も高齢化が進んでいる国であり、それに対応するノウハウの蓄積も増えている。日本と同じような課題を抱える国も増えると予想されることから、建物というハードだけでなく、高齢者が暮らしやすい暮らしの提案などソフトの面でも貢献できるはずだからだ。

地球温暖化防止の観点から日本でもZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などの省エネ住宅の普及が進められている。それは海外でも同様で、この分野においてもハウスメーカーが海外事業を拡大するチャンスがありそうだ。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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