利用総額「7億超え」木更津の地域通貨への本気度 高齢者も使えるようにとリストバンド決済考案

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また、アクアコインの場合は「地域コミュニティーの活性化」も導入理由の1つだ。

2015(平成27)年の国勢調査では、木更津市の世帯数(「施設等の世帯」以外の一般世帯)5万4827世帯のうち、単独世帯は1万7399世帯と一般世帯の31.7%を占めた。また、高齢夫婦世帯や高齢単身世帯数も増加傾向にある。

市内の高齢化や単身世帯の増加に伴い、地域コミュニティーの担い手不足や社会的孤立、コミュニティー意識の希薄化といった課題が顕在化。そこで、アクアコインをきっかけに利用者・加盟店・行政などがつながる“輪”をつくり、地域コミュニティーの活性化を図ることとなった。

アクアコインの独自機能で大手と差別化

「普通に取り組んでいたら、大手のキャッシュレス決済には勝てません。だからアクアコインは、市民の皆さんが愛着を持って使えることを意識しています」(島村氏)

オンライン取材に応じてくれた木更津市産業振興課・島村領一係長(筆者撮影)

地域経済とコミュニティーの活性化を目的に始まったアクアコイン。しかし、単なる“地域限定キャッシュレス決済”にするだけでは、PayPayなどの大手に割って入れない。

そこで木更津市では、アクアコインのプラットフォームを提供しているフィノバレーと独自機能を開発し、大手との差別化を行っている。

その代表的な機能が、「らづポイント」だ。

「らづポイント」は、ボランティア活動などへの参加によって付与される行政ポイント。ボランティア活動などの見えない“価値”を、ポイントという“数値”にして見える化することで、「地域への関心を高めてもらったり、積極的に街づくりに関わっていただいたりしています」と島村氏。

もちろん、貯まった「らづポイント」はアクアコインと併用可能。1らづポイント=1円として、アクアコイン加盟店全店で利用できる。

2020年9月には、アプリ内に「らづFit」というヘルスケア機能も搭載した。らづFitはスマートフォンの歩数計と連動しており、1日8000歩を歩くと「らづポイント」が付与される。「子どもからお年寄りまで、市民の皆さんの健康を後押しする機能」(島村氏)まで備えているのだ。

こうした独自機能が市民に受け入れられ、現在はアプリの累計インストール数が1万9000件を超えている。直近3カ月間の平均利用額は、約3000万円、累計の利用金額は7億円を超えた。

島村氏は「アクアコインの利便性はもちろん、『地域とつながる、誰かのためになる』という“地域貢献”の側面もご理解いただけているのかなと思います」と成果を実感している。

だが、すぐに市民の理解を得られたわけではない。地元の飲食店や商店には当初、電子決済自体に抵抗感を持つ店主もいた。

「地域の商店さんや個店さんは高齢化が進んでいて、スマートフォンでのキャッシュレス決済に対して『難しい・よくわからない』というイメージがあったんです。でも1つひとつ丁寧に説明してから使ってもらうと『簡単で面白いね』と理解を得られました」(島村氏)

木更津市役所・君津信用組合・木更津商工会議所の職員が根気よく説明を続けたことで、徐々に“理解者の輪”が増えていった。今では飲食店だけでなく、神社仏閣のような地域に根付いた場所にも導入されている。市内の八剱八幡神社(やつるぎはちまんじんじゃ)では、アクアコインで賽銭奉納ができるのだ。

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