「液体ミルク」を自治体が「防災備蓄」する深い意義 豪雨で孤立の島根県飯南町は「道の駅で備蓄」

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日本で液体ミルクが注目されたのは、2016年の熊本地震の時だ。支援物資としてフィンランドから液体ミルクが届けられたことで、災害時に有用な支援物資として一躍脚光を浴びた。

液体ミルクは欧米諸国をはじめ、海外では一般的で、1970年代から流通している。フィンランドでは流通している赤ちゃん用ミルクの9割が液体ミルクだ。世界保健機関(WHO)や国連食糧農業機関(FAO)では、災害時など感染リスクの高い状態では、粉ミルクよりも無菌充填される液体ミルクが推奨されている。

2014年に乳児用液体ミルク研究会を立ち上げ、日本での液体ミルクの販売・普及のために地道に署名活動を開始した末永恵理氏によると、熊本地震をきっかけにそれまで1万2000件だった署名が4万件を超えたという。

実は日本でも2009年に業界団体が、厚生労働省に乳児用液体ミルクの規格基準設定の要望書を出していたことがあったが、当時実現しなかった経緯がある。乳児用ミルクは「乳等省令」でその定義が決まっており、「粉ミルク」しか規定されていなかった。しかも粉ミルクは「乳児用調製粉乳」として「特別用途食品」に認定されているため、新たな規格基準を作る必要もあった。

それが、熊本地震で大きく取り上げられ、署名をきっかけに自民党内で勉強会も立ち上がったことなどから2016年10月、厚生労働省でも検討を開始。業界を巻き込んで試作品を作るなど大きな動きとなった。

そして、2018年8月、ついに乳児用液体ミルクの制度改正が実現し、2019年3月に江崎グリコから販売された。

短い賞味期限がネック備蓄する文京区の工夫

液体ミルクは、日常生活だけではなく熊本地震で注目されたように災害時にはかなり頼もしい存在だ。

災害時は避難所で母乳をあげる環境が確保できないことや、ストレスから母乳が出なくなる可能性もある。粉ミルクも清潔なお湯(70度以上)が必要で、災害時にはお湯の確保どころか断水も起こる。

東京都文京区では液体ミルクの発売に道筋がついた2018年11月、「文京区プロテクトベイビーコンソーシアム」を設立した。0歳児と母親向けに設置している区内の女子大や大学内の妊産婦乳児救護所や、保育園にも大災害を想定して粉ミルクとともに液体ミルクも備蓄している。

「東日本大震災のとき、赤ちゃん連れの方々が困ったと聞いた。文京区でも交通網の遮断で保育園へのお迎えが深夜になる人もおり、専門家の知見をお借りしたいとコンソーシアムを立ち上げた。液体ミルクは常温で飲めるし、避難所で男性があげることもできるのが大きなメリット」と文京区防災課長の鈴木大助氏。

日本で最初に発売された「アイクレオ赤ちゃんミルク」(写真:江崎グリコ)

乳児用液体ミルクは、ほかの非常食に比べ賞味期限が6カ月から1年半と短いことが懸念されているが、大学の備蓄分は文京区内の小中学校の給食、保育園は園内での調理に使い、ローリングストックすることで今まで無駄にしたものはないという。

島根県飯南町の「道の駅 赤来高原」では今年1月から、町役場と観光協会、江崎グリコの三者協働で、液体ミルクなどの備蓄と販売を両立させた「道の駅ローリングストック法」を導入した。通常よりも多めの在庫を抱えながら液体ミルクの販売を行うことで、備蓄量と賞味期限をともに保つことができる。

道の駅で販売している液体ミルクがある一定の賞味期限を迎えると、乳幼児検診時や子育て支援用品として町内の母子に提供される仕組みだ。

広島県との県境にある同町では今年7月、豪雨災害で冠水や土砂崩れなど甚大な被害を被り、国道が遮断され、孤立状態に陥った。

「今までも災害対策の必要性は感じていたが、これを機に町民皆が自分でどうにかしなければと本気で考えるようになった。近隣に大型のドラッグストアがないこともあり、『道の駅に行けば、災害用の備蓄品が置いてある』と意識してもらえるきっかけになった」と道の駅 赤来高原の駅長の木村和子氏は言う。

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