双子の名前発表はもうすぐ?「パンダ」の命名事情 かつて15の候補全て商標出願した事もあった

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実は、上野動物園にはパンダの名前を巡る苦い経験がある。『ジャイアントパンダの飼育 上野動物園における20年の記録』(東京都恩賜上野動物園編、1995年、東京動物園協会)にその経緯が記されている。

同書によると、前述の日中国交正常化のわずか1カ月後、1972年10月28日に来園した雌のランラン(蘭蘭)と雄のカンカン(康康)は、上野動物園の知らぬ間に商標登録され、同園がこの固有名詞を商品につけることができなかった。

そのため1986年6月1日に生まれた雌の「トントン」(童童)は、名前が知れ渡る前に商標登録を済ませることにした。だが一筋縄ではいかなかった。

まず、第1次選考で残った15種類の名前すべてを出願する必要に迫られた。第1次選考の内容が外に出ることは避けられないと判断したためだ。出願事務は弁理士に委託した。だが、商標登録は34部門に分かれており、15種類の名前を全部門に登録すると510件の出願になる。これでは莫大な費用がかかるので、第24類(おもちゃ、人形)と第26類(印刷物・写真)の2部門に絞って出願した。

その後の第2次選考で名前はトントンに決まったので、他の14種類の権利を放棄した。ただ、第26類については、ある出版社がトントンと類似の登録をしていたため、出願審査で「拒絶」の判断が下された。結局、トントンは第24類のみの商標登録となり、総額176万3750円の費用がかかったそうだ。

中国との協議経て「シャンシャン」に

上野動物園で2017年6月12日に生まれたパンダの名前は、同年7月28日~8月10日に公募して、応募数は32万2581件に上った。このうち、応募数の多い上位100点から、同じような名前、国内外にいるパンダと同じ名前、既存のキャラクター名、商品名などを除き、残った中から名前候補選考委員会が投票で8種類に絞った。

上野動物園で発売されたシャンシャン(Xiang Xiang)の名前入りグッズの一部(筆者撮影)

8種類の中で、応募数が5161件と最多だった(2位は「レンレン」で4454件)ことなどを総合的に評価して1種類に絞り、商標登録状況の調査や中国との協議を経て、「シャンシャン」(香香)に決定した。

パンダの名前は、中国の慣習にならって100日齢を目安に付けられることが多い。パンダは誕生初期に命を落とすことが珍しくなく、100日を過ぎると健康状態が安定して、一安心できるとされる。

シャンシャンは2017年9月20日に100日齢となり、小池百合子都知事が9月25日にシャンシャンの名前を都庁で発表した。上野動物園は「名前おひろめ会」を10月8日に園内で開き、シャンシャンの名前で応募した人の中から抽選で1000人に記念品を贈った。

2021年に生まれた双子パンダは、100日齢となり、順調に成長している。職員は引き続き24時間体制で飼育している。名前が決まっても、新型コロナウイルス禍なので、「名前おひろめ会」は開かない予定だ。命名者への記念品の贈呈もなく、応募者全員に双子パンダの写真の壁紙データがすでにプレゼントされている。

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