ドイツの連立協議難航とEU「メルケル後」の不安 EU主導したいマクロン仏大統領も支持率低迷

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ただ、いずれの連立となる場合も、連立入りするFDPが財務相ポストを要求している。FDPは財政規律を重視し、欧州復興基金の恒久化やEUの財政規律の緩和に反対している。財政運営でのFDPの影響力が高まると、フランスとの意見衝突が目立つようになりそうだ。また、社会民主党や緑の党はドイツ軍の国外派兵に消極的な立場を採る。この点は、マクロン大統領が掲げるEUの戦略的自立やEU軍の創設などで、意見が食い違う場面が増えそうだ。

度重なる危機に見舞われたEU運営で重要な役割を担ってきたメルケル首相が退陣し、ドイツの次期首相がEU外交での指導力を発揮するまでにしばらく時間が掛かることも考えられる。その間、独仏の力関係がややフランス優位に傾く可能性があろう。

意欲的なマクロン仏大統領だが、自身の選挙も迫る

フランスは来年前半にEUの輪番制の議長国となる。その間に今後のEU改革の道筋をつけようと考えているだろう。そのためには、年内にドイツで次期政権が発足するとともに、次期首相がメルケル首相ほどの外交手腕を発揮しないことが望ましい。

EUの行政執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、欧州議会最大勢力の保守会派出身のドイツの元国防相だ。自国出身のフォンデアライエン氏の委員長就任に反対したのが、今回政権を率いる可能性があるSPDだった。保守会派は欧州議会で過半数を持たず、フォンデアライエン氏は委員長就任後、リベラル会派や環境会派に配慮した政策を重視し、自身の所属するCDUとの関係がギクシャクしているとも言われている。

そのフォンデアライエン氏の委員長就任を推挙したのは、ドイツのメルケル首相ではなく、フランスのマクロン大統領だった。ちなみにフォンデアライエン氏はネイティブレベルのフランス語を操る。今後のEU運営でフランスの影響力が高まる可能性がある。

この点、何事にも慎重運転だったドイツのメルケル首相と比べて、フランスのマクロン大統領は時に対決的な手法を採用しがちなところも見受けられる。諸外国との間で、EUとの利害衝突が表面化する事例が増える可能性にも注意が必要となろう。そのマクロン大統領も支持率の低空飛行が続いており、来年4月に再選を目指す大統領選が近づいている。EUのリーダーシップへの不安は尽きない。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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