新首相を待ち受ける「基礎年金問題」という難題 給付水準低下で高齢の生活保護受給者が増える

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基礎年金の給付水準の低下を抑えるためには、給付財源を何らかの形で確保しなければならない。給付のためのお金は天から降って来ないので、加入者本人にもっと保険料を払ってもらうか、別の加入者が払った保険料を暗黙のうちに使って補助するか、追加で増税するかの3択である。

現行の年金制度は保険料水準固定方式を採用しており、2017年度以降、保険料水準は上がっていない。これをさらに引き上げるとなると、負担増に対する国民の反発は避けられない。

加入者に保険料をもっと払ってもらう方法として、今は60歳になるまで支払う基礎年金の保険料を、支給開始年齢の65歳になるまで払い続けてもらい、基礎年金給付に充てることも考えられる。

給付を抑えないと、生活保護は増える

しかし、本人が保険料を払えればよいが、保険料未納だと結局給付水準は上がらない。保険料免除という仕組みも使えるが、免除期間に比例して給付は一部カットされる。

別の加入者の保険料を暗黙のうちに使って補助する方法は、報酬比例年金も受け取れる厚生年金加入者が払った保険料の一部を、基礎年金しかもらえない国民年金加入者への給付に回すやり方だ。

両年金の積立金を統合したり、国の年金特別会計での勘定のやりくりを工夫するなどいろいろと考えられそうだが、国民年金加入者が厚生年金加入者に救済してもらうことには変わりない。自分が払った年金保険料は自分の老後の給付のためと思う人々からの反発は避けられないだろう。

すると、残された財源確保策は追加増税となる。もちろん、これも国民の反発は避けられない。

基礎年金の給付水準の低下を抑える方策をすべて否定すると何が起こるか。2030年代以降に高齢の生活保護受給者が今よりも増えるだろう。

ある試算によると、低年金によって生活保護受給者が増えると、生活保護給付費は2030年代初頭には対GDP比で1%、2040年代には1.5%を超え、2050年代には1.7%に達するという。これを、寓話「アリとキリギリス」のように受け取ってはならない。自らは老後に備えていて生活保護受給者にはなりえないという人でも、老後に重い税負担を負う可能性があり、無関係ではいられない。

生活保護給付の財源はすべて税金である。生活保護受給者が増えれば、その分だけ税負担を多くしなければ収支が合わなくなる。増税しないなら、生活保護給付に予算を回した分、教育や医療や防衛などに充てる予算を削らなければならない。憲法25条で保障されている健康で文化的な最低限度の生活のためには、生活保護給付は他の政策的経費よりも優先度が高い。

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