新首相を待ち受ける「基礎年金問題」という難題 給付水準低下で高齢の生活保護受給者が増える

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現在の生活保護給付の過半は、受給者の医療費のための給付である。生活保護受給者の医療費もすべて税財源で賄われている。他方、低所得でも生活保護受給者でない人は自ら保険料を払い、患者負担も払って医療を受けている。

ただし、生活保護受給者になるには、資力調査(ミーンズテスト)を受けなければならず、貯金など財産を原則として持ってはならない。

ならば、65歳以上の高齢者には税財源を使い、医療費なども自分で払えるよう最低限度の金額を資力調査なしで給付してはどうか。これなら貯金などの財産がなくなってから生活保護給付を受けるより、貯金も持ちながら最低限度の給付が受けられ、老後の生活が保障される。生活保護制度は自立を助長する仕組みであり、就労支援なども行っている。高齢者は身体的に就労も困難になってくるから、就労支援をしなくてもさほど支障はないから、生活保護制度にこだわる必要はない。

資力調査なしで高齢者向け給付を

「資力調査なしの高齢者向けの給付」といえば、まさに基礎年金そのものである。ただし、現行の基礎年金は年金保険料を払わない人に給付はない。

年金保険料を払わない人には給付しない原則にこだわり、厚生年金加入者にしわ寄せがないならよいが、そうではないことは既述の通りである。この原則にこだわると、現役時代に年金保険料を払えなかった低年金者を助けられないだけでなく、真面目に保険料を払い続けた年金受給者も税負担増から守れない。

したがって、年金保険料を払わない人に給付しない原則へのこだわりを捨て、生活保護受給者となっている低年金の高齢者にも、生活保護制度から脱して、資力調査なしに基礎年金と同様に給付してはどうだろうか。

そのための給付財源は高齢者向けに現在出している生活保護給付の税財源が活用できる。筆者の推計では、65歳以上への生活保護給付に2019年度に2.2兆円の税財源が投じられている。その分だけ、増税せずとも基礎的な給付に充てられる。

高齢者への基礎的な給付を税財源で賄うという発想は、これまで「基礎年金の税方式化」と呼ばれてきた。かつて読売新聞や日本経済新聞も基礎年金の税方式化を提言したことがある。しかし、現行の社会保険方式を支持する考え方もあり、税方式か社会保険方式かをめぐる議論は、神学論争と化した。だが、神学論争に陥れば、改革すべき課題も改革できないまま放置されてしまう。

基礎年金の給付水準の低下は抑える必要がある。それを公的年金制度の枠内だけで議論すると、高齢の生活保護受給者が取りこぼされる。税方式か社会保険方式かの神学論争に陥ることなく、税財源を充てるべき給付と、老後の所得保障をどの制度で行うか。総裁選後の新首相のもとで虚心坦懐に議論すべきである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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