ただし、その相手が見た目も含めて好みのタイプであることは大前提である。木村さんは彼女のどこに引かれているのだろうか。
「いろんな判断基準というか、考え方の土台は似ていて、なおかつ私にはない能力を持っているところですかね。たとえば、『子どもはなるようにしかならない』という教育方針は2人に共通しています。
一方で、彼女は中学生ぐらいまでは優等生だったらしく、窓ガラスの結露はなぜできるか、みたいなことを理路整然と説明できるんですよ。手先も器用で子どもの洋服を手作りしている。不動産情報を徹底的に収集して分析し、値が下がりしにくい場所にある中古マンションを購入してリフォームして住んでいます。私にはできないなあ」
鮮烈な体験を求める心と、達観と
共感と尊敬、そして子どもへの大らかな愛情。この3点がそろっているから木村さんたちの結婚はうまくいったのだ、と納得していると、木村さんは冷静な表情で指摘した。
「結婚した理由はそれだけではありませんよ。私の外部環境の変化もありました。ひとつは、今の仕事が一区切りついたこと。社長は今でも私ですが、だいぶ権限委譲ができるようになりました」
もうひとつの変化は、唯一の親しい肉親である母親ががんを患い、先が長くないことが判明したことだ。木村さんは親戚や同じく独身である弟とは疎遠であるため、母親が他界したら天涯孤独になってしまう。母親も若くない自分の先行きを案じているだろう。
「付き合い始めた頃、彼女を母に会わせました。彼女は子どもも連れて行くというのです。どうなっちゃうのかなー、と心配していましたが、子どもたちが演技派で助かりましたよ(笑)。(母親の)膝の上にのって甘えたりしちゃって……。当初は『どこの馬の骨だかわからない女と付き合うなんて』みたいなことを言っていた母がコロッと変わって、『この子たちがかわいそうでしょう。早く入籍しなさい!』なんて命令するんですよ」
今年の春に結婚し、新しい家族とともに住み始めて数カ月。30年近い一人暮らしとは大いに異なる生活である。自由がなくなって嫌ではないのか。
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