理研、キーマンの死で遠のくSTAPの総括 科学者の死という悲劇に発展した論文問題

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「科学的検証」とは、賛否が激しく議論されている検証・再現実験のこと。4月から相澤慎一CDB特別顧問(実験総括責任者)と丹羽仁史CDBプロジェクトリーダー(研究実施責任者)のチームが、論文とは異なる手法も含めて実験を行い、8月8日には中間報告がなされるはずだった。一方、小保方氏本人による論文の手法どおりの再現実験は7~11月末の予定で開始(いずれも今回の事件によって延期、中断)。検証・再現実験にかかる直接費用は、当初1300万円とされていたが、監視カメラ費なども加わり、上回りそうだ。

理研からこれまで支払われたSTAP関連の費用は、小保方氏のユニットリーダーとしての研究費とスタッフの人件費が年間2000万円。加えて小保方氏本人の給与は、大学准教授の水準とみられる。取り下げられた論文の検証のためにさらに公費を投じることの是非については、学者間でも意見が分かれる。

破綻した信用の連鎖

「再発防止に向けた取り組み」については具体的な記述はなく、改革委員会が提言したCDBの解体は、理研の保身のために行われないのではないか、との見方も出ている。市の医療産業都市構想に関与しているため、解体は簡単でないという事情もある。

だが、解体問題とは別に、不正の原因解明と再発防止策は必要だ。たとえば、STAP論文の背景の一つには信用の連鎖があった。笹井氏も若山照彦山梨大学教授も、「有力者の弟子で博士であるユニットリーダーにノートを見せろとは言えなかった」という趣旨の発言をしている。早稲田大学の博士学位や学術振興会による助成、ハーバード大学からの客員研究員であること、論文の共著者に再生医療の第一人者・笹井氏が加わったこと。この、科学者の良心を前提とした構造の破綻は明らか。今後、どのように立て直すかの議論が求められる。

「週刊東洋経済」2014年8月23日号<8月18日発売>掲載の「核心リポート03」を転載)

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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