日米はタリバン支配のアフガンにどう対峙するか 米軍撤退後、押さえておきたい地経学の注目点

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アメリカはアフガン撤退とともに、この資産を凍結した。また、IMFもアフガニスタンに送金予定だった3億7000万ドルを停止し、またアフガニスタンの特別引き出し権(SDR)も認めないとの決定を行った。世界銀行もアフガニスタンに対する支援プロジェクトを凍結した。

タリバンはこれまで麻薬取引や表に出ない形で支援する国々による財政的支援を受けていたとみられるが、それだけでアフガニスタン全土を管理することは難しい。とくに、これまでアメリカからの送金を元手に各地の軍閥を手なずけてきた中央政府の腐敗に慣れてしまったアフガニスタンの統治において、手元に資金がない状態というのは、統治を安定的に継続することを難しくさせるだろう。

また、銀行が機能マヒの状態に陥り、アフガン市民の生活の混乱が続けば、タリバンの支配に対する不満も蓄積される。そうなると、タリバンは武力による支配を強化するか、何らかの形で外国からの援助を獲得しなければ、いずれ国内情勢が不安定化し、アフガニスタン全体が再び内戦に陥る可能性もあるだろう。実際、タリバン政権は治安上の理由からデモなどを禁じているが、女性が自らの権利を求めて連日デモを行っており、一部ではタリバン兵が威嚇射撃を行っていることが報じられている。

制裁によってアフガン市民も苦しめられる

タリバンは現在のところ国際社会に受け入れられるよう、アメリカとの合意を順守し、「イスラム法に基づく」女性の権利の保護などを表明するなどして国際的な承認を求めている。現在のタリバンは20年前とは異なり、パキスタンやカタールなどとの接点を多く持ち、国際的な場において交渉してきた経験を持つ人物が指導部に多くいる。そうした背景からも、国際社会に受容されなければ、アフガニスタンで安定した統治を行うことはできないということを理解しているものと思われる。

ただ、留意しなければならないのは、制裁を継続することで、アフガン市民の人々の生活が苦しい状況になることも避けられないということである。タリバンの支配を受けている中で、制裁がなくても不安と生活苦の中で生きていかなければならない人々の経済的苦境は、金融制裁を科すことで、一層ハードなものになることは不可避である。制裁によってタリバン政権に圧力をかけ続けるのか、交渉を通じてタリバン政権に働きかけ、アフガン市民の生活を保障するのか。アメリカは難しい判断を迫られることになるだろう。

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