現在制作中の「BS1スペシャル 欲望の資本主義2021秋 特別編『生き残るための倫理』が問われる時」(NHK BS1 9月23日(木)夜9時放送)でも、この「近代主義」の揺らぎ、市場が「不均衡」を生まざるをえない状況に対して、さまざまな解を求めて、独特なアプローチを行う知性たちが登場する。
企業活動に「倫理」を求める声が高まる中、組織の目的、理念こそが最大の武器であり、ステークホルダーの幸せをもたらすとうたう「パーパス経営」、この概念の転換をコペルニクス的転回と呼ぶのは、オックスフォード大学教授、企業統治論のコリン・メイヤーだ。
もちろん、気候危機など環境問題への意識が世界的に共有される中での動きだが、短期的な利益追求の限界という状況も見て取れる。「利潤最大化」の市場の論理はどう変わるというのか?
またGAFAM主導のデジタルテクノロジーが生んだ世界を「監視資本主義」として批判するハーバード・ビジネススクール名誉教授、社会心理学者ショシャナ・ズボフも、現状に「倫理」性を突き付ける。強大なプラットフォーマーたちとの現実的な折り合いは可能なのか?
そして、政治体制の相違というイデオロギー的なフレームを外し、資本主義というシステムだけが残ったという現実を見よとする、元世界銀行エコノミストにしてニューヨーク市立大学教授、ブランコ・ミラノヴィッチが登場。
さらに元IMF理事で現在ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス学長であるミノーシュ・シャフィクが、コロナ対応が長期化、いまだ回復のシナリオを読みにくい世界経済の現状、展望を語るほか、投資家・起業家のランディ・ザッカーバーグも登場する。
前回5月放送の「霧の中のK字回復」以来4カ月余り、どこまで霧は晴れてきたのか? ワクチン接種も先進国の中では遅れが目立つ日本は? 現状レポートも、引き続きお送りする。
「環境に慣れた」思考自体を乗り越えていくセンス
さて冒頭のケインズの言葉。先に触れたように、終わらない「緊急」に慣れっことなってしまい、世間の空気に流されやすいわれわれ現代人へのシニカルな警告として聞くことも可能だが、別の文脈も浮かんでくる。
長いスパンで歴史を眺め、もっと異なる位相にまで想像力を持ち、新たな発想で事態を動かせ、というメッセージだ。「やめられない、止まらない」資本の自己増殖の中、見直すべきは何なのか? そこにオルタナティブの思考はないのか?
無形資産の時代の今、人々は夢に投資する。その一方、例えば、さまざまな経済回復の手段自体が、産業社会の時代に出来上がったスキームでの発想だとしたら。高度成長の時代の消費拡大による景気回復という発想ばかりでなく、もっと異なる方法も探られてもいいだろう。キャンペーン、イベント頼みで盛り上げ……、という流れとは、また異なる道を行くシナリオだ。
実はここでも、人々の心の底にある変化を反映した、新たな「物語」が求められている。ポスト産業資本主義の時代のリアリティーに応える社会の描き方、経済活動のスタイル、そして、新たな欲望の形が。
「環境に慣れた」思考自体を乗り越えていくセンスは、人と社会のあり方の本質を考えるためにこそ、求められているのかもしれない。
ケインズの言葉は、いつも重層的に、多義的に、響く。
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