「ストーリーというウイルス」が市場を支配する時 「欲望の資本主義」が迫る「人の心に巣食う習性」

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「ナラティブ」に加えて、もう1つの現代社会を理解する鍵となる概念、「無形資産」について、イギリス、インペリアル・カレッジ・ビジネススクール教授、ジョナサン・ハスケルは言う。

「無形資産が増えるという経済へのトレンドは不平等を広げるでしょう」(ハスケル)

トッドが言うところの「現代社会の複雑さ」「記号の勝利」は、現代の資本主義が成長の源泉を「無形資産」に見いだした結果だと言える。

「無形資産」とは、モノとして実態の存在しない資産だ。例えば特許や商標権や著作権などの知的資産、人々の持つ技術や能力などの人的資産、企業文化や経営管理プロセスなどがこれに当たる。現金、証券、商品、不動産など実態の存在する資産である「有形資産」とは異なり、計測の仕方が難しいことは想像にかたくない。

しかし、この文字どおり形を持たない資産、ソフト、ブランド、アイデアなどが、今、経済を動かす主力となっている。GAFAMの強大化に象徴されるように、その求心力になっているのは、情報であり、インテリジェンスであり、未来への可能性なのだ。

今、人々はモノではなく夢に投資する。そしてそれは、「見えない資本」による資本主義、一見「資本のない」資本主義が世界に、ネット空間を介して広がっていることが大きい。そして、それは、社会構造にも大きな影響を与える。

シラー、トッド、ハスケルに加え、『欲望の資本主義5:格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』には、そのほかにも政治学、社会学の視点もつねに忘れることなく理論経済学の最前線を走るダロン・アセモグル、「適応的市場仮説」を唱え金融経済の新たな理論的枠組みを提示するアンドリュー・W・ローなどが登場する。

シラーからローまで5人に共通するのは、現代の資本主義が、もはや利潤最大化を目指す「合理的経済人」によるパフォーマンスの総体からは読み解けないという思いであり、さらに歴史を俯瞰する視点で言えば、近代的精神とも言うべきものへの懐疑がそこにある。

「近代」の揺らぎの中「新たなアプローチの模索」

「近代」という枠組み自体の揺らぎ、見直し。それは、当然「近代経済学」への懐疑も呼び覚ます。もちろん、短絡的な理解をしないよう注意すべきではあるが、少なくとも市場メカニズムへの信頼が厚い「均衡派」から「不均衡派」へ、フリードマン的な言説からケインズ的な視点の可能性の模索への潮流は強まっている。

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