松本人志「マヂラブ漫才は消える魔球」発言の真意 2020年M-1「あれは漫才なのか論争」を振り返る
なぜ、「あれは漫才なのか」という声が湧き上がったのか? いくつか理由はあるだろうが、ひとつはマヂカルラブリーのネタが〝しゃべらない漫才〟だったからである。
M‐1での決勝ファーストラウンドのネタは、「高級フレンチ」だった。高級フレンチに行くことになったがマナーを知らないと言う野田に、村上が基本的なことを教える。すると野田が「シミュレーションしてみる」と言い出し、いきなり奇声を上げて窓を突き破ったり、丸太でドアを壊したりして店に入ろうとする。それ以後も、センターマイクから離れたところで、野田の一人芝居による破天荒なボケが続く。
このネタでもそうだったが、ファイナルラウンドのネタにおいて野田は、ますますしゃべらなくなった。ファイナルでやったのは「電車のつり革」というネタである。電車のつり革につかまると負けた気がするので、つかまりたくないと言う野田が、車内でつかまらずに我慢しようと悪戦苦闘、しまいには床に寝転がってしまう様子を、彼一流のパントマイム風の動きで表現したものである。相方の村上はそれには一切加わらず、ファーストラウンドのときと同様、センターマイクの前で実況風のツッコミを入れる。
するとM‐1の放送が終わった直後から、二つのこのネタを見た視聴者から、「あれは漫才じゃない」などの声が続々とネットに上がったのである。それがネットニュースなどでもすぐに取り上げられ、一大論争へと発展していった。
そもそも万人受けしない芸風
それには、マヂカルラブリーの芸風、特に野田クリスタルの芸風が影響していたこともあるだろう。ピン芸人としての野田は、2020年のR‐1グランプリで優勝した実績を持つ。ただし、自作の奇妙なゲームを実況するといったマニアックなネタが多く、その芸風は万人受けを狙ったものではない。このため、世代を問わず多くのひとが見るM‐1で、マヂカルラブリーのネタを「面白くない」と思ったひとは一定数いただろう。それが、「あれは漫才なのか」という疑問となって噴き出したと見ることができる。
その意味では、「あれは漫才なのか」をめぐる議論を〝論争〟だったと本当にみなせるのか、疑問の余地がないでもない。というのも、「あれは漫才なのか」という疑問は、マヂカルラブリーのネタが自分の好みではなかった視聴者の不満の表現にすぎないとも言えるからだ。
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