松本人志「マヂラブ漫才は消える魔球」発言の真意 2020年M-1「あれは漫才なのか論争」を振り返る

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そうしたなかで、お笑い芸人の反応には興味深いものがあった。視聴者からの疑問がニュースとなり、コメントを求められたりしたことで、期せずしてお笑い芸人の漫才観が浮かび上がることになったからである。そこで注目すべきは、ほとんど例外なくすべてのお笑い芸人が、マヂカルラブリーのネタについて「あれは漫才だ」という見解を表明したことである。

例えば、M‐1の決勝に進出したことのあるスーパーマラドーナ・武智は、自らのツイッターに「「これは漫才なのか?」じゃなくて、「あんな漫才見た事がない!」なんだと思う」(2020年12月27日付投稿)とツイートし、M‐1優勝経験者であるNON STYLE・石田明や同じく準優勝経験者であるスリムクラブ・真栄田賢もその意見に同調した。

M‐1で審査員を務めた経験のある博多大吉も、自らのラジオ番組で「結論から言うと、漫才でしょうね。漫才だと思いますよ」と述べた(TBSラジオ『たまむすび』2020年12月23日放送)。

M-1審査員も「漫才に定義はない」

 M‐1当日、審査に当たった芸人たちの見解も、みな一様にそうだった。

ナイツの塙宣之は、2020年12月22日付で自身のYouTubeチャンネル『ナイツ塙の自由時間』にアップした動画「M‐1審査員の本音を語ります…【ナイツ塙】」のなかで、「漫才の定義なんかない」としたうえで、マヂカルラブリーのネタは、漫才では「めちゃくちゃ面白ければ全然いい」ことを再認識させてくれたと語った。

サンドウィッチマンの富澤たけしも、自身のブログ「名前だけでも覚えて帰ってください」において、M‐1の審査基準は「とにかく面白い漫才」であることを指摘したうえで、マヂカルラブリーのネタは「漫才の変化と進化」を示すものだとした(「M‐1グランプリを終えて」2020年12月22日付投稿)。

そして、レギュラー出演する『ワイドナショー』(フジテレビ系)で松本人志は、一連の議論に対するコメントを求められ、塙と同じように「漫才の定義は基本的にない」と答えている。定義がまったくないわけではないが、むしろそれは破られるためにある。「定義をあえて設けることで、それを裏切る」のが漫才だというのが、松本の主張だ。

M‐1におけるマヂカルラブリーも、その意味において漫才である。例えるなら彼らは、野球の試合でいきなり「消える魔球」を投げたのであり、そのことが真剣勝負を期待していた人たちにとっては心外だったのだろう。今回の論争に対する自身の見解を、そのように述べた(2020年12月27日放送)。

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