「新型コロナ起源」バイデン報告書で判明したこと 原因究明へ、米中の協力姿勢こそが今必要だ

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中国はアメリカの武漢研究所流出説に対抗して、アメリカ・メリーランド州にある陸軍の医学研究施設「フォート・デトリック」などからウイルスが漏れた可能性があるとしてWHOに調査を要求している。中国メディアはオンライン署名を開始し、すでに2500万人を超える署名を集めている。

また、馬朝旭外務副大臣は8月13日、世界70カ国以上が最近、WHO事務局長にコロナ起源の政治問題化に反対する書面を共同で提出したと発表。世界100以上の国と地域の300以上の政党、社会組織、シンクタンクがWHO事務局に「共同声明」を提出し、新型コロナウイルス起源の追跡を客観的かつ公正に実施するように求めたと述べた。

WHOやアメリカが中国での追加調査を求め、西側諸国からの風当たりが強まる中、中国も必死に情報戦を展開しているのだ。米軍施設の調査も外交的な対抗手段として主張し、あえてアメリカ起源説を打ち出しているとみられる。

また、アメリカが「中国は感染最初期の生データを提出すべきだ」と主張していることについては、中国は2019年12月に武漢や周辺で当時確認された174件の症例についてのデータをWHO調査団に提出したと主張。ただし、そのうちの臨床上のデータは患者のプライバシーの守秘義務を侵害し、中国の法律にも違反するため、提供をためらっている。

米中は無用な政治的対立を避け、力を合わせるべき

米中が火花を散らす中、新型コロナウイルスの発生源ははたして突き止められるのだろうか。救いなのは、中国側も「われわれは引き続きWHOといった国際機関と協力し、ウイルス起源の研究をともに進めていく」(傅聡軍縮局長)と明言していることだ。

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地球上で450万人以上の犠牲者を出し、人類の健康と暮らしにかつてないほど大きな影響を与えているパンデミックの再発を防ぐには、科学的な見地からウイルスの起源を解明することが必要不可欠だ。

また、さらに広い視野から感染症の脅威を考えるならば、野生動物の取引や熱帯雨林の破壊、荒地開拓がウイルスや細菌を元の住処から追い出し、人間社会に広めている事実を忘れてはならない。

米中は無用な政治的対立を極力避け、人類最大の天敵となっている感染症の退治に向けてもっと力を合わせるべきだろう。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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