波乱もありうるジャクソンホール後の市場展望 スタグフレーション的ムード台頭にも警戒

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リスクの1つは、足下のインフレ高騰がいつの時点で2%近辺まで沈静化するかがはっきりしないことだ。市場内には、経済対策の現金給付などで3兆ドル近く積み上がった過剰貯蓄や株高の影響のほか、住宅価格の高騰が反映される家賃の上昇、賃金コスト上昇の転嫁などによって、来年になってもインフレ率が3%前後で高止まりするとの見方もある。

市場では、2014年1月に開始した前回のテーパリングのように、10カ月程度をかけて徐々にテーパリングを完了させ、利上げについては2022年終盤以降に少しずつ段階的に実施という想定が主流と見られる。だが、もし想定以上に高インフレが持続的となり、テーパリング完了や利上げの時期とペースが大幅に早まるという見方が強まれば、一時的にせよ、市場金利の上昇とともに割高感の強まる株価の大幅調整がありうるだろう。

コロナ感染再拡大で景気に暗雲も

もう1つのリスクは、コロナの感染再拡大による経済への悪影響だ。アメリカの1日当たりの新規感染者数は15万人を超え、ワクチン普及が十分ではなかった今年1月の水準に近づいている。死者数も1日1000人を超えてきた。こうした状況下で企業の景況感や消費者のマインドが悪化し始めており、景気の先行きに暗雲が垂れ込めている。

今年のアメリカの実質GDP成長率は7%前後の急回復が見込まれており、景気後退を心配するような状況ではまったくないが、景気の鈍化や失速感が高まるだけでも株価にはマイナス要因となる。同時にインフレが高止まりする中、程度の問題はさておき、景気停滞と物価上昇が同時進行するスタグフレーション的なムードが市場内に台頭する可能性がある。それが株価を一時的に下押す展開も想定されるだろう。

日欧に先行して出口政策を開始するFRBは今後、困難かつ微妙な手綱さばきを要求される。FRBの資産規模はコロナ禍での量的緩和によって倍増し、8兆ドルを超えている。2013年のテーパー・タントラム時と比べても倍増しており、金融市場における中央銀行の存在感は圧倒的に高まっている。それだけに、FRBが市場との対話に失敗するだけでも、株式市場などの混乱リスクは大きい。今後の金融政策と市場の行方にはますます注意が必要だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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