波乱もありうるジャクソンホール後の市場展望 スタグフレーション的ムード台頭にも警戒
「年内に量的金融緩和のペースを落とすことが適切」――。米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は8月27日にオンライン方式で開かれた「ジャクソンホール会議」で講演し、毎月1200億ドル(約13兆円)のペースで国債などを購入している量的緩和の縮小を年内に開始すべきとの考えを示した。
ジャクソンホール会議というのは、米カンザスシティー連邦準備銀行がワイオミング州のジャクソンホールで毎年夏に開く経済シンポジウム。FRB議長も講演を行い、過去には金融政策の方向性に関する示唆を行うことがあったため、市場関係者の注目度が高い。
今回、パウエル議長が言及した量的緩和の規模縮小(テーパリング)の年内開始については、7月27~28日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)において「大半の参加者」が賛同していたことが8月18日に公表された議事録で判明している。同議長は自らもその一人だったことを今回初めて明らかした。
「年内」のいつになるかは未定だが、年内のFOMCは9月21~22日、11月2~3日、12月14~15日にあり、そのどこかで決定され、年末までに実施される見通し。早ければ9月決定、10月実施もありうる。ただ、同議長は、デルタ株によって新型コロナウイルスの感染が再び急拡大していることにも言及しており、先行きの不確実性は依然として強い。
なぜ年内テーパリング開始か
なぜ、年内のテーパリング開始が適切なのか。FRBは昨年12月、「最大雇用と物価安定」という長期的目標に向けて「顕著な一段の進展(substantial further progress)」があることをテーパリング開始の条件とした。この条件はある意味、非常にあいまいだ。
ただ今回、パウエル議長は「私の見方では、インフレについては“顕著な一段の進展”の条件をすでに満たした。最大雇用に向けても明確な進展があった」と述べ、その条件にほぼ合致したとの考えを示した。ここでいう最大雇用、もしくは雇用の最大化とは、少なくともコロナ前の状態に戻ることを意味すると考えられる。
確かに雇用については、雇用統計で見た非農業部門雇用者数は6月が前月比93.8万人増、7月が同94.3万人増と大幅に増加しており、9月3日に発表予定の8月分も市場予想では同80万人前後の増加と良好な数字が見込まれる。昨年4月には14.7%まで急悪化していた失業率も7月は5.4%まで低下している。コロナ禍前の昨年2月に比べれば、7月の雇用者数はまだ570万人程度少ないうえ、失業率もコロナ禍前の3.5%にはまだ距離がある。とはいえ、「顕著な一段の進展」に違わない改善ぶりといえるだろう。
一方、インフレについては、足下ではむしろFRBが長期目標とする2%を大幅に上回っている。7月の消費者物価指数(CPI)は全体で5.4%、変動の激しい食料・エネルギーを除いたコア指数でも4.3%。また、FRBがより重視する個人消費支出(PCE)物価指数は全体で4.2%、コア指数で3.6%と約30年ぶりの高水準だ。表面的には、テーパリングの条件達成どころか、金融緩和の修正を急ぐべき危険な数字に見える。
しかしパウエル議長は今回、「インフレの急上昇は(中古車やホテル、航空チケットなど)限られた商品やサービスの価格高騰によるもの」で、「一時的な上昇と見られる」と改めて説明。賃金についても「現時点において過剰なインフレの脅威を生む証拠はほとんどない」とし、市場の長期的なインフレ予想も「FRBの2%目標に沿った水準に落ち着いている」と指摘する。足下の一時的なインフレ高騰に慌てて対処すべきではないとのスタンスだ。
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