横浜の市電、なぜ「独立採算」で保存できるのか かつての市内主要交通、車両計7両が保存館に
市電全廃の翌年、1973年8月に保存館がオープンした。同館には、昭和初期に製造され、戦後も長きにわたって活躍した単車の500型や、1936年にデビューし、クロスシートを配するなどそのモダンな造りから「ロマンスカー」とも呼ばれた1100型、防振ゴムを使った台車など高性能を誇り、戦後の横浜市電を代表する形式だった1500型など、各時代の電車6両と、無蓋貨車1両の計7両が展示されている。
廃線後の路面電車の常設展示施設として、横浜の保存館は全国的に見ても非常に充実している。その理由について保存館館長の武藤隆夫氏は、「横浜市電は関東大震災後の車両が不足した時期などに他路線から車両を譲り受けた一方で、他路線へ車両を譲り渡した記録がない。これは軌間1372mmという、都電や京王電鉄など少数の路線でしか採用されていない特殊なゲージだったのが主な理由と考えられる。また、横浜では昭和40年代になっても、昭和初期に製造された単車をはじめ旧式の車両が大量に活躍していた。こうしたことから、各時代の多彩な車両を比較的良好な状態で保存できたのではないか」と話す。
保存費用はどのくらいかかる?
では、こうした車両の保存・展示には、どれくらいの費用がかかるのか。コロナ前の2018年度の保存館の年度別収支を見ると、入館料等による収益が約870万円(入館者数4万7630人)であるのに対し、経常費用は約7600万円(うち減価償却費が約3000万円)となっている。減価償却費を除く経常費用(事業管理費)約4600万円のうち、人件費を除く車両保存関連支出で金額が最も大きいのは、年1回行う車両の屋根上の清掃(高所清掃)やシートを取り外してのスチーム洗浄などを行う特殊清掃作業だという。
入館料だけでは保存館の運営費用が賄えないのは明らかである。では、赤字分を埋める原資はどのように稼いでいるのだろうか。実は、保存館を運営する一般財団法人横浜市交通局協力会(以下、交通局協力会)は、かなり多彩な事業を行っている。
交通局協力会の事業は、大きく非営利の公益事業と、その原資を稼ぐための収益事業に分かれている。公益事業の例としては、市営地下鉄における『乗車マナーポスターコンクール』の開催(交通マナー向上事業)や、ポケット時刻表の製作(乗客サービス事業)、交通遺児の支援(福祉支援事業)などがあり、保存館の運営もこの1つに位置づけられている。
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