日本株がなかなか上昇できない「本質的な要因」 国内外の主要経済指標の分析で景気を先読み

拡大
縮小

それでも設備投資は前期比プラス1.7%、同年率プラス7.0%と堅調であった。実質輸出が既往最高レベルで推移するなか、製造業は能力増強目的もあり設備投資に前向きとみられ、機械受注や企業サーベイ(日銀短観、PMI)と整合的な結果であった。

懸念材料は、非製造業が内需の停滞に直面しており、そのため設備投資に消極的な姿勢が長引く可能性があることだ。例えば、機械受注統計に目を向けると非製造業からの受注は持ち直しの動きが一服している。コロナ感染状況の好転が遅れると、投資計画を修正せざるをえない企業も相当数出てくると思われる。コロナ感染が長引いた場合の「2次被害」として意識しておきたい。

心強いのは、輸出の強さが続いていることだ。前期比プラス2.9%、同年率プラス12.3%と4四半期連続で増加した。アメリカ向けの自動車、アジア向けの資本財が好調に推移した。自動車は半導体不足による供給制約に直面したもののアメリカの販売好調が効き、IT関連財は世界的な需要好調によりIC、半導体製造装置、半導体部材などが強く伸びた。

輸出依存が強まることでのマイナスも

以上みてきたように、日本経済は内需とりわけ個人消費に弱さが集中している。現在のところ企業部門(設備投資、輸出)がそれを補う構図となっているが、国内コロナ感染状況の好転が遅れると、やがて企業の設備投資(特に内需向け)は下火になり、輸出依存度が強まることで海外景気減速に脆弱になってしまう。

日経平均が3万円を大きく下回り、2万8000円以下へと水準を切り下げているのは、投資家がそうした国内経済の脆弱性を嫌気しているからだろう。今後ワクチン接種の進展によって国内経済の持ち直し、投資家の不安が徐々に和らぐことで、日経平均の3万円回復が期待されるが、仮にコロナ感染状況の好転が遅れ、そこに中国経済の減速が重なれば、3万円回復の可能性は大きく低下してしまう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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