さらに木次(きすき)線と接続している備後落合駅ともなると、もはや究極を通り越した中国山地の秘境の世界。人気のない山間部にたたずむ駅には、芸備線の全線完乗を目指そうと企むような鉄道ファンの姿ばかりが目立つ。なにしろ、備後落合駅は到達するだけで大変なのに、三次方面に折り返さずに先に抜けようとすればそれはさらなる困難を伴う。
どれだけ困難なのかというと、芸備線でそのまま先に抜ける場合は乗り継ぐ列車は1日にたったの3本だけだ。それも朝の6時41分の次が14時38分、そして最終が20時12分。乗り継ぎを考えたら事実上昼の14時38分発の1本しかないといっていい。だから芸備線の完乗は艱難辛苦の旅になってしまうのだ。
ならばと接続している木次線に乗り換えようとしても、こっちも1日3本だけだ。9時20分、14時41分、17時41分。芸備線への乗り継ぎに比べればいくらかはマシだが、その違いはほんのわずかにすぎない。いちおう、木次線には土休日や観光シーズンを中心に運転されるトロッコ列車「奥出雲おろち号」が12時57分に発車する。これならば、備後落合駅にわざわざ訪れる価値もありそうだ。
2つの顔を持つ芸備線
ともあれ、芸備線は広島駅に近い区間では通勤通学路線としての顔を持ちつつ、中国山地に分け入って奥深くに行けば行くほど列車の数が減少し、ローカル色を強めていく。備後落合―東城間は1日にわずか3往復だ。
こういったローカル区間の運営に対し、JR西日本は沿線自治体や住民などと運行のあり方について協議する意向を明らかにしている。端的には廃線の危機といっていい。
こうした動きに湯崎英彦広島県知事は「JR側があまりに安易に一方的に廃止できるとの問題意識を持っている」などと反発した。
むろん、安易に廃止に踏み切るのはいただけないが、かといって1日3往復の路線に鉄道の本領が発揮されているとは言いがたい。地元に暮らす人たちの交通の便がよりよく確保される形で公共交通のあり方全体を考えていくほうが健全なのではないかと思うのだが、いかがだろうか。
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