デルタ株の感染力が高いために、希望者全員のワクチン接種が終わったとしても、社会経済活動の規制を緩和すると、未接種者と接種しても免疫を獲得できなかった人々の間での感染拡大が続き、現在の医療提供能力を超える患者数が発生する可能性がある。
藤井・仲田(2021b)のシミュレーションでは、人流データと感染率の関係をもとに、ワクチン接種1本目が全国民の約7割に行き渡るであろう10月あるいは11月から社会経済活動を徐々に拡大した場合の重症者、入院者数を予測している(図1参照)。
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ワクチン接種進んでも医療提供体制の強化が必要な理由
社会経済活動を緩和するタイミングにも依存するが、東京都の重症者数は現在の確保病床数の2倍から3倍になる可能性がある。したがって、秋以降に社会経済活動規制を緩和するためには、確保病床など重症者の受け入れ能力を2倍以上、できれば3倍ほどにする必要がある。
現状の医療提供体制を前提として、社会経済活動への規制を続けるという政策では、コロナ感染症の拡大は防ぐことができるかもしれないが、そのために失うものは多い。社会経済活動の規制によって、失業率の上昇や貧困の増加が発生する。
失業率と自殺は強く相関していることが知られているが、コロナ禍においては失業率上昇だけでは説明できないほどに自殺が増加している(図2、藤井・仲田(2021a))。社会的活動が制限された若者たちは、教育・訓練を受け、人的ネットワークを充実させることが十分にできない。その影響は長期にわたって続く。医療提供体制を強化することで、この秋に社会経済活動回復の第一歩を安心して踏み出せるようになる。
8月12日の新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言でも「これまで新型コロナウイルス感染症に関わってこなかった医療従事者や医療機関もそれぞれの果たすべき役割を認識のうえで、新型コロナウイルス感染症の対策に携わること。そのために、国及び自治体は、強いリーダーシップを発揮して医療機関や医療従事者に協力を求めること」と述べられている。医療提供体制の強化は、短期的にも中長期的にも強く求められる。