コロナ医療体制、2倍以上の拡充を求める緊急提言 社会経済活動を規制したままでは別の犠牲が出る

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医療提供体制強化の指針として、「医療機関間の連携強化」と「選択と集中」がある。軽症・中等症・重症を受け入れる医療機関の連携を強化し、回復期の患者を一般の病院でも積極的に受け入れるようにするという連携強化は1つの方法である。一方、コロナ患者の受け入れに適した医療機関とそうでない医療機関が分散して患者を受け入れるとさまざまな非効率性が発生する(高久玲音(2021)「コロナが問う医療提供の課題(1)-(9)」『日本経済新聞(やさしい経済学)』(2021.5.7-5.19)。

医療機関間の連携強化に取り組むことに加えて、「選択と集中」によって医療提供体制をもっと効率的に強化できるはずである。新型コロナウイルス感染症の重症者・中等症者を少数の大規模病院や高機能病院に集中させ、他の病院はその機能や能力に応じて、コロナの軽症者、回復期の患者、感染性を失った回復者のリハビリ、自宅療養者や宿泊療養者の健康管理などにそれぞれ集中する。また、感染状況や医療資源の全体配分を勘案し、なおコロナ患者の受け入れに適さない医療機関は通常医療の継続に注力することもできる。

医療従事者の給与体系の柔軟な見直しも必要

なお、重症者用の病床も含めコロナ病床数を全体的に増やすことが必要だが、体力の乏しい民間病院も対象にして、空床確保料の引き上げなどで広く薄く病床確保を進めることは、必ずしも効率的とは言えない。むしろ、感染症が広がりやすい都市部の公的病院を中心に、積極的な受け入れ態勢を構築するほうが効率的である。

ただし、負担の大きなコロナ患者を今以上に公的病院に引き受けてもらううえで、民間病院と比較して公的病院の給与水準が低いことも障害になっている。コロナ対応の特別手当を支給するなど給与体系を柔軟に見直し、医療者の連帯を高める方向で受け入れ態勢を構築する必要がある。

また、圧倒的な感染爆発が発生し、専用病院を設置する場合には、病床の管理にあたる都道府県ではなく、国の主導で整備することが望ましい。国民への行動変容に依存した感染対策は、効果の大きさや持続性に関して不確実性が大きい。医療提供体制の強化は、政府が直接確実に行うことができる政策である。

確保病床や宿泊療養施設を増設しても、看護師など医療スタッフが確保できないためにコロナ患者を上限まで受け入れられないという指摘がある。しかし、看護師の人数が必ずしも全国的に不足していなくても逼迫が生じており、自治体が看護師の増員を人材派遣会社に依存する体制に問題がある。国が看護協会、都道府県のナースセンターなどと調整し、全国の医療機関から看護師等を感染拡大地域の医療機関に、業務として一時派遣するようにすべきである。

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デルタ株の感染力の強さ、ワクチン接種が普及しても感染が長期化するリスク、長期にわたる社会経済活動制限の負の影響などを考慮すると、現在の医療体制を所与とした感染症対策のあり方を、再検討するべき時期であると考える。われわれの提言が、今後の社会経済活動・医療提供体制・感染症対策の新しい在り方を模索するうえで、皆様の参考になれば幸いである。

大竹 文雄 大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授

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おおたけ ふみお / Fumio Otake

1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年大阪大学経済学部助手、同社会経済研究所教授などを経て、2018年より大阪大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。2005年日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞、2006年エコノミスト賞(『日本の不平等』日本経済新聞社)、日本経済学会・石川賞、2008年日本学士院賞受賞。著書に『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)など。

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小林 慶一郎 慶応義塾大学経済学部教授

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こばやし けいいちろう / Keiichiro Kobayashi

東京大学大学院工学修士、シカゴ大学経済学博士。経済産業省、経済産業研究所、一橋大学経済研究所を経て、2013年から慶應義塾大学経済学部教授。経済産業研究所ファカルティーフェロー、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

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