東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か

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この基準変更は、根本的な哲学が間違っているのではないか。つまるところ彼らの哲学は、株式が流通している企業のほうが偉いということである。だから、銀行が持っていても、目的が純投資であり、売買の実績があれば、流通に入れるという。なにをかいわんやである。

大規模な機関投資家を見過ぎていないか

なぜいい企業だと思い、創業時から出資したのに、その株を手放さなくてはいけないのか。なぜちょこまか売買する必要があるのか。その企業を信頼し、将来を嘱望していればこそ売らないのだ。これは世の中の常識だ。ビンテージカーでも中古マンションでも歴史的な美術品でも、よいものはめったに売りに出ない。オークションなど市場に出回っているものは、言ってみれば、何らかの訳あり品だけなのである。

企業も同じだ。実際、M&A市場においても、「良いもの」は売りに出ない。創業者、大株主は死んでも手放さない。それなのに、短期に売買されればされるほど偉くてプライム市場に残り、誰も売らない超優良企業はプライム落ちをするものもある、そうした側面があるのである。

象徴的なことに、プライムから外すかどうかの基準に売買代金回転率が入っている。トレーダーが売り買いする企業は残るのである。デイトレーダーが好きな銘柄は残り、個人投資家が長期保有し続ける銘柄は外される、のである。

なぜ、こんな馬鹿げたことになっているのか。なぜ100億円以上の時価総額の大きな企業だけがプライムなのか。なぜ、株式が毎日売買される企業が偉いようにみなされるのか。

それは、インデックス投資家が売買しやすいからである。大規模な機関投資家にとっては、時価総額20億円の企業はどんなに魅力的であっても投資対象にならない。日本株を1兆円運用しているときに、時価総額20億円の企業にその5%の1億円を投資して、その企業の株価が倍になっても儲けは1億円だ。1兆円の0.01%だ。チリが積もっても山にならない。

だから、大規模機関投資家は時価総額の大きな企業からインデックスに目をつぶって投資するのである。実際には目はつぶらない。日本に投資するかどうか、アジアにおける中国以外の国の中で日本に何%投資するかは判断するが、日本の中でどの企業に投資するかは自分で判断せずにインデックスに頼るのである。こういうときに便利なインデックスが欲しいのである。そして、東証は、彼らのためだけに全力でTOPIX改革を行っているように見えるのである。

では、東証はどうすればいいのか。

それは、長くなったので次回にしよう。ガバナンスの本質もそこで議論したい。ただ、最重要ポイントだけを言っておくと、日本のガバナンスに足りないのは、制度でもなく、社外取締役でもなく、終身雇用が悪いのでもない。良い株主、投資家が少なすぎることに尽きる。

企業価値の長期的な最大化を目指し、自らも積極的に企業を理解し、独自に判断する投資家が増加し、彼らが株主にならない限り、ガバナンスはよくなりようがないのだ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースや競馬論などを語るコーナーです。あらかじめご了承ください)。

次ページここからは競馬コーナー。「儲かる馬主」になるためには?
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