東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か

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機関投資家の主流はパッシブで、株価指数(インデックス)に投資する。アクティブと呼ばれる運用者が自分で銘柄選択をする場合でも、インデックスをベンチマークにして、その構成に近い投資を行い、運用者としての特徴を投資家(資金の出資者)にアピールする、つまり自分の「味」を出すためには、少しそこからずらすだけである。

この結果、市場の投資資金のほとんどはインデックスに流れ込む。だから、インデックスは重要なのである。

個人投資家でさえ、初心者もプロも正しい投資はインデックスのETF(上場投資信託)である。日本で有名な日経平均株価は225銘柄のインデックスであるが、個別銘柄の名目の価格(例えばファーストリテイリング1株約7万5430円、ソフトバンクグループは同6647円、8月13日現在)をウェイトとするために、非常に偏っており(前述の2銘柄などのウェイトが極端に高い)もので、ベンチマークにはふさわしくない。

よって、普通の運用者は皆TOPIXをベンチマークとして使う。世間で日経平均が圧倒的に有名なのは「株価指数とはブランドだから」ということに尽きる。同様に、先物やオプションで日経平均が使われるのは、みんなが使うから使うだけのことであり、彼らは運用に興味はなく、高速のトレーディングや短期のセンチメントで売買することが商売だからである。ただ、彼らも取引所の主要顧客であり、収入源の一つである。

インデックス投資が主流になって、どうなった?

さて、この結果、インデックス投資が主流になってしまい、リサーチを丹念に行う小型株ファンドはもちろん、アクティビストファンド、ヘッジファンドも大規模運用者に押し流されて埋もれかけている。だから、アクティビストは埋もれないように過激化し、世界中で猛威を振るって、企業経営を混乱させている。

一方、HFTと呼ばれる、高速取引を行うトレーダーたちは「ナノセカンド(=10億分の1秒)」を争い、隙間のサヤ取りをしたり、サヤ取りと見せかけて、ナノセカンド単位での仕手筋的な動きをしたりして、稼ぐ。それは取引所にも利益にはなるが、そのためにシステムに過度な負荷がかかり、コストもかかる。実際、結果的にシステムの不調の責任をとる形で社長が辞任したことは記憶に新しい。これが、ここ10年の相場の現実だ。

投資家たちはローコストのインデックスファンドだけ、少し出資者の色を出すならESG(環境・社会・ガバナンス)などプラスして社会貢献を求めるのが流行している。この結果、個別の企業の隠れた価値を見抜いて賭ける投資家はほとんど存在しなくなってしまったのである。

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