「いつかは無料」が覆された高速料金のこれから 五輪中「首都高1000円上乗せ」は序の口なのか

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高速道路の料金については、無料の国もあれば有料の国もある。永年無料が売り物だったドイツのアウトバーンは、1995年から「道路に負荷がかかるという理由」から大型トラックなどで有料化が実施された。環境整備のためのやむをえない理由だといえるだろう。

ドイツのアウトバーン(筆者撮影)

 

高速道路は基本的な社会インフラだという視点からは「無料が望ましい」との意見が出るのは当然である。しかし、日本は国土が狭く、保有台数も2021年5月末のデータで約8228万台(自動車検査登録情報協会調べ)と多いことから、高速道路を無料にすれば、クルマが殺到し渋滞が増すことは容易に想像される。

かつて2009年から2年ほど、休日に普通車などを対象に高速道路の通行料金の上限を1000円にするという施策が行われたのを覚えている人もいるだろう。

このとき、旅行需要の喚起などそれなりの経済効果はあったものの、全国で渋滞の発生時間がほぼ2倍、東名と名神では3倍となるなど、激しい渋滞が起きた。もし無料となれば、こうした渋滞への対策をしておかなければ、さらに激しい渋滞を引き起こす可能性が高い。

鉄道やSDGsも考慮したバランスのいい施策を

また、高速道路の全国への広がりは、都市間高速バス網の充実をもたらし、地方のJR衰退の一因となっている。道路に多額の公的資金が投入される一方で、もともと民間である私鉄はもちろんのこと、民間企業となったかつての国鉄、現在のJR各社も「独立採算」が基本だ。

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コロナ禍で鉄道会社の経営がさらに苦しくなっている中、高速道路の料金が引き下げられたり、はるか先ではあるが無料になったりしたら、鉄道各社の経営はさらに厳しくなるだろう。

ヒトやモノの移動にかかる「経費」は、利用者の便益だけでなく、さまざまな交通機関のバランス、さらにはSDGsの視点を入れ込んだエネルギー効率など、多様な視点で議論する必要がある。

日本の高規格道路の通行料金のありようについては、生活に直結するだけに、一部の有識者や業界の声だけでなく、広く利用者や関係する当事者の声も聴きながら、議論を続けてほしいと願う。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、高崎経済大学特任教授、京都光華女子大学教授を歴任し、現職。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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