100年時代の健康戦略:「文明病」に負けない人生 ジーニアスライフで脳と体、環境の良い関係を

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それから母の症状はひどく悪化していき、2018年12月6日午前11時、母は66歳でこの世を去った。すべてを失っていく母の姿を見ているのは、胸が張り裂ける思いだった。

母の病気を予防するために、なにかできることはなかったのか。あれほど健康そうに見えた母が、すっかり変わってしまった原因はどこにあったのか。私が心身ともに健康で長生きするために、私自身にできることはなんだろうか……。

そんな問いが頭から離れなくなった。

母を襲った悲劇をきっかけとして、その答えを探すうちに、私は健康について、特に脳について多くを学ぶことになった。

世界中のトップレベルの研究機関で働く専門家から学び、たくさんの人と協力する機会にも恵まれた。認知症予防の臨床研修に役立つ教育ツールを開発し、テキストブックの一部も共著した。

そして、食生活と脳の重要な関係に気づき、その発見をもとに2018年、私にとってはじめてとなる著書『ジーニアス・フード』(未邦訳)が誕生した。

私の発見を患者に勧めてくれたという、世界中の医師や看護師、食事療法士、栄養士から連絡を受け取った。

遺伝子は健康にどのくらい関係があるのか

『ジーニアス・フード』を著すための調査は、食生活に対する私の考えを変えた。とはいえ、栄養学はつねに進化している。しかも、栄養は健康というパズルのピースのひとつでしかない。

そこで2018年中頃、私は「ジーニアス・ライフ」という名前のポッドキャストをはじめた。その番組を通して、脳とからだの関係について、さまざまな分野の最前線で活躍する専門家から、さらに多くを学んだ。

それは栄養学から断食、時間生物学(時間と体内時計との関係を調べる学問だ)、睡眠科学、運動生理学までの幅広い範囲に及んだ。

私たちは長いあいだ、人間の運命を握るのは遺伝子だと考えてきた。遺伝子が重要なことは間違いない。だが、健康問題のうち、どのくらいの原因が遺伝子によるのかについてはさまざまな意見がある。

アメリカでは、4人にひとりがアルツハイマー病のリスク遺伝子を保有し、非保有者と比べて発症リスクが2〜14倍も高い。ところが、その同じリスク遺伝子とアルツハイマー病の発症とのあいだに、明確な関連性が認められない国や地域もあるという研究もある。

また多くのがんの発症リスクは、遺伝要因だけでなく環境要因によっても高まるとされ、実際、がん患者は増加傾向にある。たとえば1960年代、女性の乳がん罹患率は20人にひとりだったが、今日では8人にひとりに跳ね上がっている。

この70年というもの、人間の遺伝子は変わっていないが、環境は大きく変わった。環境が健康に及ぼす影響を指摘する報告は増えてきている。

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