復興五輪なんて嘘「今も苦しむ被災者」悲痛な本音 五輪期間中に帰還困難区域で見た厳しい現実

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やぶの道をさらに進むと、瓦屋根の平屋住宅が見えた。サンルームや玄関の下部にオレンジ色のベニヤ板が張られている。イノシシが侵入しないようにするためだという。ベニヤ板にはイノシシの茶色い足跡が残っていた。上に向かうように7、8個。ベニヤ板をよじ登ろうとしたようだ。柴田さんは「イノシシだけは許せない」と言う。

「汚染がひどくて、家にはもう住めないんです。新潟大学の教授に家の中の放射線量を測ってもらって『住めるレベルではない。解体しかない』って言われた。だから、もう住めない……それでも、イノシシに荒らされるのは許せない」

柴田さんの両親が住んでいた家。イノシシが侵入し、内部は荒れ放題(筆者撮影)

イノシシが家屋に侵入すると足の踏み場も残らない

被災地ではイノシシが大量に繁殖し、家屋を荒らしている。私もこれまで、イノシシに侵入された家々を福島原発周辺でたくさん見せてもらった。あちこちにフンは散らばる、家具はぐちゃぐちゃにされる。家の中では、足の踏み場も残らない。柴田さんも、そんな状態になるのが耐えられないという。終の棲家にと思って建てた家だ。

「将来は長男一家が住めるようにと思って、平屋の上に2階を建て増しできる作りにしたんですよ」

柴田さんの両親は、ここに隣接する家に住んでいた。ガラス戸が破られ、玄関のドアは開きっぱなし。ピンクの座布団が玄関に落ちている。「こっちはもうイノシシに突き破られたんです。奥でタンスが倒れているでしょ? 食べ物を探してタンスを倒したんだと思います」。

家の中を案内してもらうため、車の外に出ようとすると、窓にくっついているアブに気付いた。前にも横にもいる。大きい。2~3センチ以上はありそうだ。20匹以上いるかもしれない。ピーピーという耳慣れない音が車内で鳴り始めた。

「衝突防止センサーですね。アブに反応しているんです。畑や家の周囲がやぶに覆われてしまって、大量発生しているんです。事故前はこんなことはなかった。前は冬だったので家に入れたんですけど……夏は難しいです」

センサーが「衝突の危険がある」と間違ってしまうほどのアブの大群。車内から見えない部分をびっしり覆っているのだろう。「これは無理ですね。出た途端、刺されます。痛いです」。私たちは家に入るのを諦めざるをえなかった。

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