復興五輪なんて嘘「今も苦しむ被災者」悲痛な本音

五輪期間中に帰還困難区域で見た厳しい現実

この日は東京オリンピックの3日目だった。テレビは五輪一色になり、ネットにも五輪の中継や関連ニュースが溢れていた。やぶになった柴田さんの畑を目の前にしながら、私はスマートフォンを開いた。ちょうど、東京・有明でスケートボートの男子ストリートの決勝が行われていた。堀米雄斗選手が金メダルを取った種目である。画面を見せると、柴田さんはこう言った。

「復興五輪というのは、復興していないわれわれにとってはウソですよね。違和感があります。招致のために復興というウソを使われたのはいやだなと思います。ここにこそ選手団に来てもらい、福島の実際の姿を世界に発信してほしかった。

でも、野球やソフトボールの選手団は新幹線で福島駅に来て、新幹線で帰るだけでしょう。インタビューで選手が『福島はきれいでした』と答えていました。復興していない被災地の本当の姿は見せなかった。復興はもう終わったと、誤った発信になってしまったのではないでしょうか。私自身は30年経ってもここに帰れないんじゃないかというのが実感です」

柴田明範さん。浪江町の自宅前で。スマホには東京五輪の中継映像が映っている(筆者撮影)

地域も、家も、畑も、仕事もすべて失った

柴田さんに津島地区を案内してもらった。事故前の地区人口は約1400人。小学校と中学校、高校も揃っていた。そのすべてに足を運ぶ。津島小には事故当時、6年生だった柴田さんの次女が通っていた。

体育館横には花を育てるのに使っていた小さなシャベル。30本ほどがバケツの中で錆びている。3階建ての校舎を窓からのぞくと、「こんだて表」「学級の係」などが貼ってある。「がっこうはたのしいよ」とひらがなだけの紙も教室の後ろに貼ってあった。薄い桃色の造花が3本ほど下に落ちていた。ここでは造花も枯れるのか。

校庭を見渡せる場所で、柴田さんは言った。

「校庭では毎年、小学校と中学校、高校の保護者対抗のソフトボール大会をやっていたんです。お母さんたちは体育館でバレーボール大会。100人近くの大人が参加します。大会前から盛り上がったなあ。子どもたちは地域全体の子どもたちだったんですよ。子どもが歩いていれば、『どこどこの家の子だ』って会話になる。

うちの子が車で津島地区の人の車に軽くぶつかって、キズをつけてしまった時も『柴田さんのうちの子か。じゃあ、もう行っていい』と言われて、そのまま帰ってきました。長女も次女もそのまま高校まで地元で育っていくと思っていましたからね。今はみんなばらばら。孤独です。地域も、家も、畑も、仕事もすべて失った。失わなかったのは家族だけです」

県立浪江高校津島校には、体育館のわきに支援物資が入っていた白い段ボールが置いてあった。原発事故の避難所だった痕跡だ。段ボールの側面には「災害時救急物資 毛布 新潟県 10枚」の印字。それもまた、緑のツタに覆われていた。

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