デルタ株とワクチン接種、途上国は時間との戦い

アジア開発銀行の浅川総裁に聞く「支援と課題」

(デザイン:藤本 麻衣)
より感染力の強い新型コロナウイルスの変異株(デルタ株)が世界中で猛威を振るっている。ワクチン接種の進展によって今春から全面的な経済再開を本格化させたアメリカや欧州に冷や水を浴びせかけ、アメリカの一部都市やフランス、イタリアなどでは一般市民に商業施設や医療施設の利用時にワクチン接種記録(パスポート)の提示を義務づけるなど対応策が拡大している。
しかし、もっと厳しい戦いを強いられているのは新興・途上国だ。ワクチン不足によって、インドネシアやタイ、ベトナム、インド、南アフリカ、パキスタンなどでのワクチン接種完了率は8月8日現在でも10%に達していない。
『週刊東洋経済』8月16日発売号は「『コロナ後経済』の大難問」を特集。変異株に立ち向かう世界の最前線を追っている。
デルタ株が医療逼迫を引き起こし、都市封鎖を余儀なくされる新興・途上国は拡大。自動車や電子部品の一部生産停止など世界のサプライチェーンに影響を与えつつある。
仮に、デルタ株流行の下で先進国の経済再開が継続できたとしても、新興・途上国の生産不調が先進国の需要好調と共鳴して、インフレ高進→アメリカなどの金融政策正常化(引き締め)の早期開始といった悪循環に入りかねない。途上国の開発支援を担う国際組織・アジア開発銀行の浅川雅嗣総裁にアジアの新興・途上国の状況を聞いた。

ワクチン接種の9割近くは中高所得国に集中

――アジアの新興・途上国のワクチン接種の状況は?

デルタ株が蔓延しないうちになるべく早くワクチンのロールアウトを進める必要があり、時間との戦いだ。流行の抑制が遅れれば、新たな変異株の出現につながるリスクもある。しかしながら、7月下旬時点で世界のワクチン接種は累計35億回を突破したが、その9割近くは中高所得国に集中している。

あさかわ・まさつぐ/1958年生まれ、静岡県出身。1981年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。1985年米プリンストン大学にて行政学修士。2011年にOECD(経済協力開発機構)の租税委員会議長に就任し、国際課税ルールの見直しを主導。2015年財務省財務官、2020年から現職(写真:アジア開発銀行)

アジア開発銀行は昨年末、開発途上加盟国がワクチンを迅速に調達するための90億ドルの融資枠「APVAX」を作った。対象となるワクチンの適格性基準は、COVAX(各国へ平等にワクチンを分配するための国際的な枠組み)やWHO(世界保健機関)の事前認証、緊急使用リストなどに準拠しており、英アストラゼネカや米モデルナ、米ファイザー、米ジョンソン&ジョンソン、中国のシノファームやシノバックスのワクチンも使える。

APVAXでは、融資の要件として加盟国に医療従事者や高齢者、貧困層の接種を優先するワクチン分配計画を求めている。6月末までにフィリピン、インドネシア、アフガニスタン、太平洋島嶼国、モンゴルなど7カ国15億ドルが決まり、別途3.2億ドルの協調融資も動員している。

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