無印「売上高3兆円」へ食品が大変貌遂げるワケ 「毎日使う商品」の開発、価格見直しも本格化

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良品計画がもう1つ掲げる「地域への土着化」は、リアルの店舗を持つからこそ可能になる。それは単に地場の商材を扱うということにとどまらない。人が集まり、交流が生まれることで、「店舗は生活サポートの場になることができる」(嶋崎氏)。

生鮮食品を取り扱う店が徐々に増えている(撮影:今井康一)

ここでも「食」の果たす役割は大きい。毎年冬のシーズンに一部店舗で販売する「不揃いりんご」。規格外となったりんごを1個税込100円前後で販売する。生産者との交流の中で、規格外のりんごをジャムなどに加工するより、そのまま販売するほうが生産者の利益が多いことに気づき、始めた取り組みという。地方では農業が産業の中心であることが多いことを考えると、地域への土着化では「農と食」が大きなテーマになる。

食品で1兆円規模が必要になる

この点でも準備は始まっている。昨年9月、食品部を2つに分け、商品開発担当と事業開発担当を置いた。事業開発担当は生活雑貨部門や衣料部門にはない役割で、食品で新たな事業展開を立案・実行する。現在は出店の際のコンセプト作りなどが中心だが、今後は現地の生産者とのつながりを深め、「農と食」を事業化する役割を担う。

食品部長の嶋崎朝子氏。「食品は万人に必要。私たちのコンセプトを理解してもらうのに適している」と話す(編集部撮影)

3~4年前から始まった食品の強化だが、既存店での展開には限界があり、これまでは大型の新店が出店した際に拡充するレベルにとどまっていた。今後は出店数が増えるとともに店舗の大型化も進むため、いわば食品強化が出店の標準となりそうだ。そうなれば、量が増え、商品開発面や価格設定面でスケールメリットを発揮しやすくなる。

食品強化が始まった際に掲げた売り上げ構成比3割は、「今後も変わらずに目指すべき1つのゴール」(嶋崎氏)。それが2030年に実現するとすれば、食品だけで1兆円近くを売り上げることになる。衣食住の3部門が一体であることが無印良品の強みだが、「日常生活の基本を担う存在」「地域への土着化」は、食品の強化がなければ実現できないだろう。

無印良品は第二創業に向けて本当に変わるのか。それを解く最大のカギが、食品にあることは間違いなさそうだ。

山﨑 理子 東洋経済 記者

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やまざき りこ / Riko Yamazaki

埼玉県出身。大学では中国語を専攻、在学中に国立台湾師範大学に留学。2021年東洋経済新報社に入社し、現在小売り・アパレルを担当。趣味はテレビドラマのロケ地巡りなど。

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